『沙希のお見舞いにお花とプリンで、幸村君はお花と果物…』


スーパーでプリンと果物を買い、お花屋さんはきれいなガーベラを買った。
でも幸村君のほうはもしかしたらお見舞いを拒否られることもあるかもと、ちょと心配。
昨日あったばかりなのに随分なれなれしく話してしまったな…。


ため息をつきながら沙希の病室の扉に手をかけ開ける。



『沙希、お見舞いにきたよ』

「あ、おねぇちゃんだ」

「あら、お帰り初音」

『お母さん!!』


この時間帯はお見舞いにお母さんが来るんだった。とりあえず買ってきたガーベラを花瓶に生けて、沙希の横に座る。
お母さんは仕事が忙しい。でも合間を縫ってここに来てくれている。

沙希のベッド脇にある机にりんごののったお皿がある。多分お母さんが剥いてくれたんだろう。
りんごをひとつ口にいれ、沙希に買ってきたプリンを指しだす。



『沙希、プリン買って来たよ』

「わーい!!食べていい、お母さん」


「いいわよ。ありがとう初音。それより、そのお花と果物はなぁに?」

『あぁ、これは違う子のお見舞いなの』

「おねえちゃんゆきちゃんのとこに行くの?」

『うんそう。行って来るね。』


幸村君の病室の前まで来た。なんだか静かだけど寝てるのかな?
そう思ってそっと病室の扉を開けて中を覗くと、誰もいなかった。
あぁ、留守だったのかと思って病室から出ようとしたその時。




「わっ!!!」

『!!!…ゆ、きむらくん?』

「びっくりした?」

『うん』


大きな声にびっくりして振り向くと、ニコニコと楽しそうに笑う幸村君がいた。
私の心臓はまだドクンドクンと波打っている。
そんな私の心中を悟ったのか、彼はクスクスと笑い始めた。



「どうしたの?沙希ちゃんのお見舞い?」

『うん、それは今終わったから今度は幸村君のお見舞い』


果物の入っている袋とガーベラの花を見せると、彼はどうぞと言って病室に私を招きいれた。病室に入って幸村君はベッドに腰かけ、私は近くの椅子に座る。

昨日と同じように他愛のない話で盛り上がる。
話をしている間、時々壁に掛かっている時計を気にする幸村君。もしかしたら誰かお見舞いに来るんじゃないだろうか。ということはここに長居しないほうがいいんじゃないだろうか。


「どうしたの?」

『ううん、あっ私そろそろ帰るね』

「もう少しだけ良いかな?もうそろそろだと思うんだ。」


え、何が?と聞こうとしたところで扉が開いた音に、私は言おうとした言葉を遮られた。扉を開けたのは男の子だった。


「幸村部長!!ケーキ買って来まし……ん、誰ッすか?」


不思議そうな顔をして私を見る男の子。幸村って部長さんなんだ。
この子は同じ部活の後輩なのかな?

特に何も言わない幸村君に、私も入ってきた男の子も特に何も言わずにいた。その間に男の子の後ろには人だかりが出来て、たくさんの人が入ってきた。



「驚かせてごめんね福永さん。彼らは皆テニス部の仲間なんだ。今日は部活がないからお見舞いに来てくれたんだよ。
それから皆、こちら福永初音さん。マネージャー候補なんだ。」

『よろしくお願いしま…え?』


幸村君から発せられた衝撃的な言葉。マネージャー候補?私が?
だって昨日会ったばかりじゃないの私達。状況の全く読み込めていない私とは正反対に、幸村君はニコニコしている。



『あの、どういうこと?』

「福永さん、立海男子テニス部のマネージャーになってくれないかな?」

『マネージャー?私が?』

「駄目かな?俺は今こんな状態だし、部員の管理も心配なんだ。俺が復帰するまでの間でいい。頼めないかな?」



少し悲しそうに、でも真剣に頼んできた幸村君。そんな顔をされたら断れないよ。
部長さんなんだもんね。そりゃ部活が心配だよね。もうそんな事を考え始めたら反論するような余裕もなくいつのまにか私は了承していた。




「よかった、ありがとう福永さん」

『うん、どういたしまして。なんだけど、名前が「名前が分からないと、お前は言う」はい…?』

「違うか?」

『はい、言うつもりでした…。』

「フッ…そうか、俺は柳蓮二だ」

『よろしくお願いします』


柳君は愉快そうに笑っている。何故私が言おうとしていた事がわかったのだろう。
そんな柳君の計らいで、一人一人自己紹介が始まった。

さっきの男の子は切原君という二年生らしい。



『福永初音です。幸村君とは妹のお見舞いのときに知り合いました。
家事は得意なので、役に立たないことはないと思います。い、以上です…』

「福永って、B組だよな」

『うん。丸井君は?』

「俺もB組」

『そうなんだ一緒だね。』


そうか私は丸井君と同じクラスなんだね。新しい発見に喜んでいる私とは正反対に、丸井君の顔はなんだか浮かない顔をしてる。
どうしたの?と聞くと、ため息をついた丸井君の代わりに切原君が答えた。


「同じクラスなのに丸井先輩も、仁王先輩も知らないなんて変わってるっス」

『仁王、先輩…?』


なんで、仁王君が出てくるんだ?彼は関係ないじゃないか。
丸井君と、また違った方向からため息が聞こえた。その主は例の仁王君だった。



「俺も、ブンちゃんと同じクラスじゃ」

『そうなんだ。』

「お前さん意味わかっとるんか?」

『…何が?』

「お前さんはB組。ブンちゃんと俺もB組。」

『うん』

「お前さん俺達と同じクラスだった事知らんかったじゃろ」

『まだクラスの人ちゃんと覚えてなくて…。』

「もう夏だろぃ!!」

「お前さん、ちと変わってるのぅ」

「最初は俺のことも知らなかったからね」

『ちょ、幸村君!!!』



幸村君の発言により、物凄い速さで何かをノートに綴る柳君。
そして爆笑する切原君に、複雑そうな顔をしている仁王君と丸井君。

こんなんで大丈夫なのだろうか、マネージャー。





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