「幸村君!!」


終礼直前に、俺のクラスに焦って飛び込んできたのは丸井だった。異様な焦りように、俺の心が少しざわつく。



「どうしたの?」


平静を装って聞く。


「初音、知らねぇか?」



思ったとおりだった。初音に何かあったんだ。考えたくなくて無意識に消していた可能性に確信が持ててしまった。
おそらくあいつらは俺達が終礼には動けないと予想していたのだろう。

俺は丸井に伝言を頼む。


「皆に伝えて。俺は初音を先に探してるから。」



丸井はわかったと言って教室を出た。俺もすぐに教室を出ていそうな場所を片っ端からあたっていった。
柳の話だと、初音にされるのは強姦。数人の男子生徒を呼び、襲わせる。

全速力で走る。胸が苦しい。一歩一歩が遅く感じてもどかしい。
初音何処にいるんだ。お願いだから間に合ってくれ。
それだけを考えて俺は校内を無茶苦茶に走り回る。

体育館まで来て携帯の振動に気がつく。携帯を開くと着信の件数は半端ではなかった。今まで全然気がつかなかった。着信は柳からだった。



「もしもし」

《精市、お前は今体育館にいるな?》

「あぁ、そうだけど…」

《今すぐ体育倉庫へ向かえ。お前が一番近い。》

「体育倉庫?」

《あぁ。職員室へ行ったら体育倉庫の鍵だけなかった。おそらくファンクラブのやつらが持ってるだろう。急げ!!手遅れになるぞ》


“手遅れ”その言葉が胸に刺さる。了解の返事と、体育倉庫へ向かうよう全員に指示をだす旨を柳に伝え、俺は体育倉庫へ向かった。

倉庫の扉を引くが、開かない。しっかりと鍵がかけられている。
中から初音のくぐもった声と男の声がする。
気持ちを駆り立てられる様に扉を思い切り蹴った。

しかし開かない。やっぱり鍵がないと駄目か…!!
でも今鍵を持っているのはファンクラブのやつらだ。

どうする。奪ってくるしかない。
俺が体育倉庫から離れ走り出すと頭上から俺を呼ぶ声。
上を見ると仁王だった。

仁王は俺に向かって何かを投げ落としてきた。キャッチして見ると、それは鍵だった。



「ファンクラの奴からブン取った!!!はよしんしゃい!!そこに初音がおるんじゃろ!!?お前さんが助けんで誰が助けるんじゃ!!失敗したら殺すぞ!!!」



俺は仁王に向かって頷き、鍵穴に鍵を差込む。ガチャリと鍵が開いたと音と同時に扉を開く。


「初音!!!」


初音は倉庫にあるマットの上に倒され、男に馬乗りにされ、口と手足を押さえられていた。

そして、泣いていた。


誰かがここに入れるなど予想だにしなかったのだろう。男達は驚いて目を開いている。
全員を睨みつけながら俺はゆっくり倉庫内に入る。



「今すぐ初音から離れろ。じゃないと命の保障はない。今すぐ殺す。」



自分でも初めて聞いたような低い声だった。初音が涙目で俺を見る。
更に睨みつけながら奥へ進むと、奴らは全員観念したように外へ出た。

俺は急いで初音に駆け寄り体を起こす。
初音は相当怖かったのだろう。俺が近づくや否や抱きつき泣いた。

制服は少し乱れていたけれど、それは多分抵抗の後だ。犯される前だったようだ。本当に良かった。俺は安心して泣きじゃくる初音の背中をさすった。

彼女の体は震えていて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「初音!!」

『ぶん、た…』

丸井が倉庫に入ってきて、初音に駆け寄った。同じようにブン太に続いて全員初音に駆け寄る。

初音が俺の胸板を押す。離してくれ、という事らしい。
名残惜しいが離してやると、目を擦って初音は笑顔を作った。


『だいじょぶ』


赤い目元と引きつったような笑顔。そんな顔で言ったって説得力がない。丸井もそう思ったんだろう。初音頭を撫でてこう言った。



「バーカ、泣いて良いんだよ」


その言葉で、初音はさっきとは違って大きく声を上げてわんわん泣いた。
泣き声の中には、時々ありがとうとか、ごめんなさいとか聞こえてきて、謝ってんじゃねーよって丸井に頭をくしゃくしゃ撫でられて更に泣いた。