「ゆきちゃーん!!」
病室に一人の女の子が元気良く入ってきた。
パジャマではなく私服を着て、手に花束を持って沙希ちゃんは俺の所に来た。
「退院おめでとう沙希ちゃん」
「うん!!」
『沙希!!勝手に走っちゃだめでしょ。転んだらどうするの。』
「お姉ちゃんだって早足だった!!」
図星で言い返せないのか、初音はバツが悪そうに黙った。
元気に笑う沙希ちゃんに、まぁいいかと初音は笑った。
沙希ちゃんの手術は成功した。
退院し、他の子と同じように小学校に通って毎日楽しんでいるらしい。
今まで体を動かせなかった分、沙希ちゃんは今思う存分体力を限界まで使い切り、結構怪我をして帰ってくるという。
今も沙希ちゃんのほっぺたと足には絆創膏がしてある。
『具合はどう?』
「あぁ良好だよ。退院が楽しみだ。」
『良かった。』
初音は安心したように笑った。それにつられて俺も笑い、そして沙希ちゃんも笑った。
沙希ちゃんの手術の一ヵ月後、俺も手術をした。
結果は成功。体調は良好。近々退院の許可が出るだろうと看護婦から聞いた。
やっとテニスが出来る。やっと皆で戦える。やっと初音の傍にいつもいられる。
退院後の自分をあれこれ想像して、俺は期待で胸を膨らませる。
「初音は俺たちと全国までついてきてくれるかい?」
『もちろん』
「良かった。」
『精市』
「何?」
『私からも言っていい?』
「うん。」
『精市とこれからもずっと一緒にいさせて下さい。』
顔を真っ赤にして初音はそう言った。
赤い顔がだんだん俯いていく。
「もちろんだよ。好きだよ初音。」
そう言うと、初音は俯いていた顔をあげた。さっきよりも顔が赤いけれど、恥ずかしそうに笑っている。
そんな笑顔ごと彼女の体を引き寄せ、抱きしめた。
俺にしか聞こえないほど小さな声で初音は囁いた。
『好き』
後から沙希ちゃんがいた事。そして看護婦が俺の退院を伝えるために部屋の外にいた事を気付かされ、赤面するのはまた別の話だ。
END
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