最近ブン太がやけにしつこい。逐一私がどこに行くのか聞いてくるし、授業中もずっと視線を感じる。
そんなブン太を不思議に思いながら、私は帰り支度を始めた。
日直の私は、終礼前に担任から返却物を取りに来るよう頼まれた。帰り支度を済ませてからでも十分遅くはないだろうと思って、私は机に手を突っ込んだ。

すると教科書やノートとは違って薄い紙が一枚入っていた。きっとまた呼び出しの手紙だろう。少しため息をついて開く。
案の定それは呼び出しの手紙で、私はさらに大きなため息をついた。


『今日の放課後、屋上に来い、か。』


いつも通りの文面。さほど危機も感じずにいたのが致命的だった。
日直の仕事のため、職員室にいる担任の所へ向かった。私は油断しきっていた。その廊下の途中で、いきなり後頭部に強く何かがあたる。
頭の中が鐘を鳴らしたようにゴウンゴウン響いている。
その気持ちの悪い感覚を感じたまま、私は意識を失ってしまった。









どのくらい眠っていただろう。目が覚めると、辺りはすでに真っ暗だった。


『ん…ここは…?』


独特の匂いがする。私は何か柔らかい所に寝ていた。
それを触ると、体育で使うマットに感触が似ていた。おぼつかない足で辺りを探る。
しばらくすると、目が慣れてきたのか真っ暗だった辺りが少し見えてきた。


『これは、跳び箱…?』


木箱のようなものに行き着き、それを触っていると上のほうに布の感触。
私が触っていたのは跳び箱だった。そうか、ここは体育倉庫なのか。通りでとても匂うなと思った。

しかし居場所の確認が出来たと同時に疑問が生まれる。何故私はここにいるのだろうか。

日直の仕事で職員室に向かう途中に頭殴られてからの記憶がない。結局誰にやられたのかさえわからないままだ。

頭を殴られたという記憶が出てきた瞬間、あまりさっきまで気にしていなかった後頭部の痛みが急に増した。
その痛みと共に倉庫の出口まで来る。扉の取っ手を力の限り引っ張ってみた。しかしびくともしない。


『どうしよう…』


誰かに連絡しようにも鞄を持っていないので、当然携帯も持っていない。ここは校舎から結構離れているから声も届かない。
結局出た結論は、誰かが来るのを待つしかないという事だった。

さっきまで寝ていたマットに座って誰かが来るのをじっと待つ。すぐにどこかの運動部か何かがきっと来るだろう。
特に何もする事もなく、私はボーッとしていた。
すると外が騒がしくなった。人の声が聞こえ始めた。

あぁ、やっと誰か来た。
倉庫の重い扉が開き、倉庫内に光が差し込む。すこし眩しくて目を細めたが、入ってきた人物を見て目を開いた。

いつも私を呼び出していたファンクラブの子達に連れられて、数人の男子生徒が入ってきた。知らない制服だ。立海生ではないらしい。

ファンクラブの人が腕を組んで、座っている私を見下ろして笑う。
急に背筋が冷え、私は怖くなった。



「これだけ忠告しているのにあなたが辞めないからよ。これで少しは反省できるんじゃない?」


それだけでこの後の展開は手に取るように見えた。恐怖は更に募り、足が震える。




「なぁ、もういいか?俺達スゲー溜まってんだけど」

「ええ、好きにして構わないわ。それじゃあね、福永さん。楽しんでね?」

『待って…っ!!!』

「お前はこっちだ」

『嫌っ離して……っ!!!』



ファンクラブの人達は体育倉庫から出て行き、鍵を閉める音が聞こえた。
逃げようと出口に向かったが、その瞬間男達に腕をつかまれ、私は倉庫の中へ再度引きずりこまれた。

さっきまで座っていたマットに体を叩き付けられ、いよいよ逃げられなくなってしまった事を悟る。
反射的に出る涙も滅茶苦茶な抵抗も、もはや相手には通じていない。

それを分かっていても、動きを止めて諦めてしまったらどうなるのか。その先を考えたくなくて、嫌だと叫びながら足と手をバタバタ動かした。


「怖がんなって。俺達テクニシャンだから。」

『は、なして…っ!!嫌、だ…!!』

「嫌だ嫌だうっせーんだよ。お前そいつの口押さえとけ。」

「あいよ」

『んぅ!!!?んーーー!!んーーーー!!!』



口を手で塞がれた。助けを呼べない。くぐもった自分の声が聞こえる。
嫌だ嫌だ嫌だ。誰か助けて。誰かに足と手を固定された。
いくら力を込めても言う事を聞かない体。誰かの手が胸の辺りを張っていく嫌悪。

助けて。お願いだから助けて。


涙が流れた感触が頬に伝わる。その時浮かんだ顔は精市だった。




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