「やあ、皆元気?」

『せ、精市!?』


次の日、雅治とギスギスした関係のままいつも通り朝練に来た。どうやって雅治と話そうか、どうやって謝ろうかと一人登校中にあれこれ考えたが、いい案は全く浮かぶ事はなかった。

すこし緊張して部室の扉を開けると、さっきまでの不安を一掃する人物がそこにいた。
精市だった。彼はからし色のジャージを肩から羽織り、ソファに腰掛けている。

状況が理解できていない私を理解してか、精市は一週間だけ退院の許可が出たんだと言った。
あぁそういうことか、と私は納得し、同時に今の自分が置かれているこの状況を精市に知られては不味いと心臓がドキリと鳴った。



「じゃあ、俺は担任の所に行かなきゃいけないから」



そう言って彼は部室を後にした。一気に緊張から解放されたような感覚に、一瞬座り込みそうにもなったが、足に力を入れて部室に入った。

雅治が私と目を合わそうとしない事に気付いて悲しくなった。ブン太が悲しそうな顔をしているのが、赤也が何か言いたそうに私を見るのがとてもとても申し訳なく思った。


皆練習に向かってしまって、今部室には私一人。静かな部室には私がドリンクを作る音だけが響いている。
ドリンクを作っている間、浮かんだのは今朝見た精市。

いつもお見舞いの時に見る精市とは違っていて、それは多分一週間ではあるけれ退院できたからっていうのもあるんだろうけど、私には彼が怒っているようにも見えた。
いつもの精市の話し方じゃなかった。


もしかして精市は知っているのかな、ファンクラブにされてること。


その考えに至った瞬間眩暈がした。
私は相当皆の練習を邪魔している。雅治もブン太も赤也も私の心配をしてくれている。そのせいで彼らの笑顔を今日は一度も見ていない。

自分に対する憤りと情けなさで、私は少し蹲って泣いた。








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