最近呼び出しが多くなったように思う。あざも、傷も治ってはできるの繰り返し。
反撃も出来ないし、されるがままになってるけどマネージャーだけは辞めたくない。




「何か言えば?それとも痛くて言えないの?」

『マネージャーを辞める気はありません』

「ふざけないで!!!」

『っ!!!』


会長の子は私の顔を思い切り殴った。しばらくして口に広がった鉄の味。
ハッと目を見開いた彼女は、多分相当怒り狂っていたのだろう。
いつもならあまり見えないところに当てるはずなのに今日は顔に傷を作ってしまったと。

顔を殴られたのは初めてだったから私も驚いた。


そんな事を考えている間も口の中には鉄の味がどんどん広がってく。気持ち悪い。
今すぐ吐き出して口の中を濯ぎたい。



「あんたがいると、テニス部に迷惑なの!!」



毎日のように言われるこの言葉。
結構皆の役に立てていると思っているんだけど、意外とそうでもないのかな。
精市に言われて仕方なく皆雇っているんじゃないかな。


最近ネガティブだ。一発蹴ってから気が済んだのか帰っていったファンクラブの子達。
立ち上がって部室に行く。殴られたほうの頬を触ると少し腫れていた。

水道で口を濯ぐと、冷たい水に反応して嫌がるように口の中に痛みが走った。
吐き出した水はとても赤くてビックリした。

髪の毛で頬のラインを隠し、部室に入った。
すると全員がこっちを見て顔を青くしていく。一番最初に口を開いたのは赤也だった。


「先輩その顔…」


泣きそうな顔になって私の頬を指差す赤也。あぁ、やっぱり隠せないか。
ごまかすように笑ってみたけれど赤也の顔は更に泣きそうになってしまった。



『転んだだけだよ、大丈夫。心配しないで。』

「だって…!!」

「初音」

「仁王先輩…?」


雅治が赤也君を下げて、代わりに私の真正面に来た。
今まで聞いた事がない位低くてドスの利いた雅治の声に、私は少し足がすくんでしまった。
なるべく平静を装って私は雅治に返事をした。



『何?』

「何じゃなか!!正直に話せ!!昼休み何しとるんじゃ!?その傷は一体何じゃ!!?俺達には話せないんか!!!言ったじゃろ、心配させるなって…!!」

『……心配させたくないよ。だから、言わない。』

「初音!!」

『真田君、練習始めて』

「あ、あぁ……」



雅治が悲しそうに、そして悔しそうに俯いて私の肩を強く握った。
私はそんな雅治から逃げるように離れてシンクへと向かった。

そんな顔しないで雅治。ごめんね。
シンクに水道水と混じって私の涙までもが排水溝に流れて行った。




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