昨日、真田副部長とか柳生先輩とかにすっごい顔で明日は朝練に来いと言われた。
遅刻なんてしたら殺されっから、ちゃんと早く来た。

そして、いつも通り朝練に来ていた初音先輩見て違和感を感じた。


(……ジャージ着てない)


本当だったらこんなこと多分どうだっていいんだけど、先輩達のあの顔思い出して、やっぱり何かあったのかなって思った。
直接初音先輩に聞いたら家に忘れただけだって言われた。
そしていつもの笑顔で頭を撫でてくれた。

なんだ、俺の考えすぎか。なんか安心した。
でも一瞬だけ先輩の顔が悲しそうになったのを見て、また少し不安になった。

コートに戻る前に先輩に向かって叫ぶと、先輩はありがとうと大きな声で返してくれた。



「丸井先輩」

「あれ赤也?早いじゃん、どうしたんだよ」

「真田副部長に呼ばれたんですよ。絶対に来いって」

「へぇ。おっ真田じゃん、はよ。」

「おはようございます」

「ちゃんと来たか」

「はい。何かあったんスか?」

「……いや、まだ何もない」

「まだ…?」



まだってなんだ?これから何かあるのか?
それは俺達に?それとも初音先輩に?



「赤也、福永に何か変わったことはあったか?」

「いや、何も…。あ、制服でした。」

「そりゃ学校来てんだから制服だろぃ」

「そうじゃなくて!!先輩ジャージ家に忘れたって…。」

「家に?んな訳ないだろ。あいつ昨日ロッカーにちゃんと入れてたぜ?」

「でも、先輩はそう言ってたッス。」

「弦一郎」

「蓮二か、どうした。何かわかったか?」

「あぁ。福永のロッカーにこじ開けられたような跡があった。」

「そうか…。誰がやったのかはわかるか?」

「いや、そこまではわからない。福永が制服で仕事をしていることからジャージはおそらく何処かに隠されたのだろう。」

「部室のロッカーって余ってたよな。そこ初音に使わせてやろうぜぃ」

「あぁ。そのつもりだ。今仁王と柳生に福永のロッカーに入っているものを全て回収させに行ってる。」

「え、ちょ…全然話が読めないんですけど…」


俺の目の前で淡々と進んでいく話。俺は全く状況がわからない。
真田副部長が早く来いって言ったのと関係あんのかな。

視界の端に仁王先輩と柳生先輩が見えて、そっちのほうを見るとそのまま部室に入っていった。抱えていた籠を初音先輩に渡して何か話している。
さっき言ってた事かな。部室のロッカーを初音先輩に使わせるって話。


「行って来たぜよ参謀」

「あぁご苦労だったな。福永は了承したか?」

「いや、何とか説得して無理矢理渡しました。私達には何をされているのか言いたくないようです。」

「そうか…」


深刻そうに顔を歪める先輩達。もしかして先輩いじめられてんの?
てか、ジャージ家に忘れたって言うのは嘘?何でそんな嘘つくんだよ…。


「真田、柳。福永のジャージ見つけてきたぞ」

「ジャッカル先輩…」

「おう赤也。今日は早いな。」

「初音先輩に何かあったんですか?何で俺だけ何も知らないんですか!!
教えてくださいよ!!俺だって先輩達の役に立ちたいッスよ…。」


自分が子供のようで情けない。何も知らない。知らされない。
ガキだから、まだ俺はガキで、今だって感情的になって怒ったから。
情けないってのに、何か泣きそうになって唇を噛み締めた。



「お前はまだ知らなくていい。」


そう真田副部長に言い放たれて、もう俺はどうしようもなくなってしまった。
悔しくて悔しくてしょうがなかった。






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