昨晩のどうしようもない不安はもうどこかへ行ってしまった。皆がいるから私は一人じゃないから大丈夫。そう思っていたのに。


「着替えないと…」


放課後の部活で跡部さんに持っていった飲み物をかけられた。あんなに美味しいと言って飲んでくれていたのに。いつもありがとうと頭を撫でてくれてたのに。一日で人はこんなに変わってしまうものなのだろうか。今まで私たちが過ごしてきた時間は一体どこに行ってしまったのだろう。


「何で…先輩達どうして…」

「自業自得じゃねえか」

「…!!し、宍戸先輩」


気が付かなかった。いつの間にか部室の扉前には仁王立ちをしている宍戸先輩の姿があった。


「お前、紗江だけじゃなくて長太郎まで騙したのか」

「………どうしてそんな事言うんですか」

「長太郎に言われた。今の俺とはダブルス組みたくねえんだとよ。これだってお前のせいなんだろ。何がしてえんだよ、お前の事仲間だと思ってたのに裏切って騙して楽しいかよ!!!」


宍戸さんの怒声とともに振り下ろされた拳が頬にあたった。鉄の味が次第に広がって、痛みなのか悲しみなのか涙まで溢れ出てくる。私が泣くとは思わなかったのだろう。宍戸さんが少し怯んだのがわかった。


「何泣いてんだよ、お前に泣く資格なんかないんだからな」


それだけ言って宍戸さんは部室から出ていった。
一度涙腺が緩むと私の場合なかなか止まらなくなる。ぼたぼたと拭われることもない涙が床に落ちていく。

長太郎と宍戸さんがダブルスをやらない…。それは間違いなく私のせいで、私があの二人の仲を引き裂いたんだ。そう思うと胸がどうしようもなく痛くて、長太郎と宍戸さんに謝った。





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