「…苗字がいない」

「もう先輩達休憩入ってるみたいだけど、まだ部室かな。行ってみよっか日吉。外周で名前ちゃん不足だもんね」

「………俺はタオルを貰いに行くだけだ」

「素直じゃないなあ」


鳳の言葉には無視を決め込む。これにいちいち応えていては埒が明かないのを俺はもう重々承知しているからだ。付き合いが長いからかこいつには何でもお見通しなようで(だからと言って苗字が不足しているというのが本当なわけは決してないが)苗字を探すためにこいつも後ろから付いてきた。


部室が視界に入ってきたところで、中からレギュラーの先輩達がぞろぞろ出てくるのに出くわした。またなんでこんな大所帯で、とその疑問はすぐに解決することとなる。


「お疲れ様です、宍戸さん」

「……おう、お疲れ長太郎」

「…?どうしたんですか、何かあったんですか?」

「お前らもう名前と関んな。行くぞ樺地ついてこい」

「……………ウス」



宍戸さんと跡部さん達はそれだけ言って樺地をつれてコートに戻っていった。そこに取り残された俺と鳳は部室のバカでかい扉を開いた。



「苗字っ!!!!」

「名前ちゃん…!!日吉、ケガしてる…ソファに!!」

「あ、ああ」


苗字の体が流しの前で倒れている。その周りには洗濯したてであろうタオルが泥にまみれてところどころ靴の跡がついている。流しには無造作に転がされたドリンクボトルがあり、おそらくその中身は床にこぼれている……


「日吉っ!!何してんだよ、キョロキョロしてる暇なんて今ないんだぞ!!!」

「……鳳、これは一体どういう状況だ…」

「そんなの、そんなの………」



「俺が聞きたいよ」と鳳が言ったのを聞いて、俺と鳳の推測が全く一致していることが分かった。もう俺も鳳もわかっている。これをやったのが誰なのか。目的はわからないが、こいつにこんなことをさせたその張本人も。

俺はコートを睨み付けて、鳳と共に苗字の治療に取り掛かった。
「全員ぶっ殺してやる。」その呟きはさっき連れていかれた樺地が慌てて部室に入ってきた音でかき消されたが、鳳が隣でうなずく気配がした。



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