“すきだ”


親の仕事の都合で私は転校する事になった。
住んでいた場所を離れ、仲の良かった友達と離れる事になった私にとって新しい場所は異端の地だった。

うまくやっていけるか不安で、仲間はずれにならないか不安で。
新しい学校に私の心は不安でいっぱいで、とてもウキウキするなんて出来るはずなかった。

全校朝礼でたくさんの人の前で緊張しながら挨拶をして、担任の先生と思われる人に案内された教室で再度挨拶をし、知らない人の隣に座っていろんな人に質問攻めにされ。
まだ朝だっていうのに疲れた。家に帰りたい。


「…名前?」

『え?』


名前を呼ばれてその方を見ると、またもや知らない人。
何だこの学校は。初めて会った人でも名前で呼び合わないといけないのか。欧米かっての。


「覚えてないか、俺の事…」


彼の言葉で私は今までの記憶を掘り起こした。しかし彼に該当するものはない。
どこかであった事があるのかな。


『ごめんなさい、覚えてないです』

「そうか…俺は手塚国光だ。縁あってまた同じクラスになったんだ。わからないことがあったら何でも言ってくれ。」

『ありがとう手塚君』


またってことは、以前にも同じクラスになった事があるってことか。
私中学は一度も転校してないから小学校の頃かな…。

今日一日は手塚君との接点を一生懸命探して終わった。どれだけ考えてもやっぱりわからなかったのだけれど。
それでも手塚君は今の私にとって唯一頼れる存在になった。

家に帰って一番最初にしたのは卒業アルバムをひっくり返す事だった。
けれど幼稚園の頃のやつから中学まですべてさらってみたけど結局手塚君と同じクラスになった形跡はなかった。

一体私と手塚君の接点はなんなのだろう。何で手塚君は私の事を覚えていて、私は手塚君の事を覚えていないんだろう。




『そういう訳で、手塚君が一体誰なのかわかりませんでした…』


次の日、私は早速手塚君の元へ行った。
彼は生徒会室にいたのでそこまで行って半分土下座状態で謝った。

私の行動にびっくりしたのか手塚君は目を大きく見開いて、それから困ったように笑った。


「卒業アルバムを見たって分からないさ。お前が持っているアルバムと俺が持っているアルバムは全く違うものだからな。」

『どういう意味?』

「お前卒業間近で転校していっただろう」

『あれ、そうだっけ…』

「卒業式まであと一ヶ月をきった所でな。たぶんお前が持っているのは転校先のアルバムだろう。自分の事なのに覚えてないのか?」

『いや、言われてみればそうだったかなって…』

「…まぁいい。ここに俺の卒業アルバムがある。見るか?」

『あ、見る!!』


手塚君が鞄から厚みのある大きめの冊子を取り出す。
わざわざ持ってきてくれたんだ…。なんだか私は感動して手塚君が神様に見えてきた。
手塚君がクラス写真の所を開いて二箇所指差した。私と手塚君の写真だ。
確かに私と彼は同じクラスだったようだ。

しかし何故転校した私の事など卒業アルバムに載せたのだろう。もう居ないのだから載せたって仕方がないじゃないか。


「俺が貼った」

『え?』

「お前がアルバムに載ってなくて、自分でお前の写真を切り取ってここに貼ったんだ」


私の写真は確かにのりか何かで貼られたものだった。しかも手塚君のお隣。
大人っぽい手塚君が急に子供っぽく見えて私はその写真を指で触っていた。するとだんだんのりが剥がれて端のほうが剥がれて来てしまった。


『あ、ごめん手塚君!!せっかく貼ってくれたのに剥がれちゃった…!!すぐつけるね。』

「いや待て」

『え?』

「写真、剥がしてみろ」

『…剥がしちゃうの?』

「後で貼るから良いんだ。剥がしてみてくれ。」


手塚君にそう言われて私はベリッと音を立てて写真を剥がした。アルバムのツルツルした紙質に、この写真の紙質は合わないらしく簡単に剥がれた。


「裏側を見てくれ」

『裏……えっ』

「…驚いたか?」

『これは一体…』

「今も変わらない。お前と再会してまたあの時の気持ちが蘇って来た。あの時言えなかった事、今言ってもいいか?」

『…う、うん』


私の肯定の返事に手塚君は笑った。そして顔を近づけて言った。
















すきだ













《“名前が好きだ。いつか俺が会いに行くから待ってろ。”手塚君ってば小学生の癖にませてる…》
《俺が会いに行くはずだったのが、逆になってしまったな。》
《ホントだね。でも会えてよかった。私はまだ全然思い出せないけど…》
《まぁいいさ。これからあの時以上に俺を好きになってくれればそれで。》
《…何か手塚君ハンサムだね。》
《そうか?》




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リクエスト下さった黎央様ありがとうございました!!

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