理解するにはまだまだ時間を要しそうだ



「どないしたんや」


頭上から降ってきた低音の声。大して離れた距離でもないのにものすごく遠い場所からのように聞こえる。
てか誰…。


「顔真っ青やんか…保健室行くで。立てるか?」


目の前が真っ暗になっていて一体誰かわからない。

部活を終えて気分が悪くなって階段の所で気分が良くなるまでと蹲っていた。その時だった。誰かが話しかけてきたのは。


『誰…?』

「…誰やろな。取りあえずほら、俺に体重かけてええから立ち」


腕を引っ張られて無理矢理立たされる。
また吐き気が襲ってきて私は口を手で塞いだ。


「…!!もうちょい我慢な。すぐやからな。」


抱きかかえられて私は保健室まで連れて行かれた。
洗面器を顔の前に持っていかれて我慢できずに嘔吐した。その間ずっと背中をさすってくれた彼にお礼を言う暇もなくベッドに寝かされた。


「落ち着いたか?」

『ありがとう…ございます』

「何で敬語やねん」

『だって…』

「わからんか、俺のこと」

『………お、忍足君…』

「おん。あんな所で蹲っとるからビックリしたで。」

『ごめんなさい…。でも何で助けてくれたの?』

「何でって…何でんな野暮な事聞くんや。倒れてたから助けた、それだけや。」

『そっかぁ…あれ、忍足君部活は?』

「休憩やったんやけどまぁええわ。」

『ごめん…』

「なんで謝んねん」

『だって部活…』

「俺は宍戸みたいに部活に執着してへん」


忍足君はそう言って笑った。
考えてみれば、氷帝の天才と呼ばれる彼に私は嘔吐する所を見られた挙句、こうして介抱してもらっているっていうのは、とても恥かしく申し訳ない。
なのに悪態一つ言わずに私の傍に居てくれる忍足君はなんて紳士的な人だろう。


「…なんやねん、その眼差し」

『尊敬の目』

「なんやそれ。尊敬の目なんかで見られてもちっとも嬉しないわ。」

『ごめんなさい…』

「謝らんでええって」


忍足君がそう言うとため息をついた。
何故ため息をついたのか全く見当のつかない私は首をかしげる事しか出来なかった。
そんな私を見て忍足君は困った顔で笑い、私の頭を撫でた。















理解するにはまだまだ時間を要しそうだ














《元気になったんやったら早よ帰り。送ってったる》
《え、いいよ。部活戻らないと跡部君に怒られちゃうんじゃない?》
《自分天然か?それともただの馬鹿か。》
《ば…!!馬鹿って酷いね》
《(こいつ鈍感やな。何で俺はこんなのが好きやねん。)》


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リクエスト下さった春都様、ありがとうございました!!

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