体が君への気持ちを記憶していた



目が覚めた。

白い天井と眩しいほどの太陽の光で目が眩む。
その光を遮ったのは制服を着た知らない男の子で、私は再度眉根を潜めた。


『誰や…自分』

「は…?何言っとんのや名前…そんなギャグオモロないで」

『人違いやろ?ウチは名前やなくて………』


名前やなくて、なんや?
ウチの名前は何ていうんや?

ここ、どこやねん。ウチの前にいるコイツは誰やねん。
ウチは誰やねん。


「お前…まさか記憶が…」

『記憶?』


青ざめてそいつはそう言った。
記憶ってなんやねん。ウチどないしたんや。

昨日の夕飯全然思い出せへんのやけど。それどころか、家が思いだせへん。
家族の顔も名前も全然思い出せへん。


「名前…ホンマに俺の事わからへん?」

『せやから知らんて』

「白石部長や謙也さんの事は?」

『…しらいし?けんや?誰や』


ウチがそう言った瞬間、男の子は走って部屋から出て行った。
今いる場所は一体何処なんやろか。腕を少し動かすと何か変な感じ。

管がつながっていた。その先には何やら薬らしきものが入った透明の袋。


『点滴…?』


点滴の袋には“苗字名前様”と書かれていた。
これがウチの体とつながっているって事は、おそらくウチの名前は“苗字名前”というんだろう。

そういえばさっき彼がウチの事“名前”って呼んどったな…。
なんでウチは自分の名前を忘れてしもたんやろか。

その後すぐ、部屋に白衣を着た女の人とさっきの男の子とウチのお母さんという人が入ってきた。
白衣を着た人に、ウチは記憶喪失って言われた。
何や、記憶なくなってしまったらしい。

頭打ったんやって。

それを知ってからしばらく経ったが記憶は戻らないままウチは退院した。



『なぁ光』

「何や」

『何でウチ頭打ったんや』

「ドジやからやろ」

『何で一緒にいてくれるん?』

「幼馴染やからや」

『ふーん』

「あと、」

『何や?』

「お前ん事好きやからや」

『へー』

「反応薄いわ」

『いや、んなの今言われたかて何も思わんわ』

「じゃ、記憶戻ったらもっぺん言ったるわ」

『ん、ほな待ってんで。あ、でも』

「何やねん」

『ちょっとドキっとした。多分体の記憶やな。ウチも光の事好きやったんかもな』

「…はよ記憶戻しや」

『おん』















体が君への気持ちを記憶していた














《クソ、名前のくせにこっちまでドキっとするような事言いなや》
《名前のクセにってなんや。光のクセに。》
 





*******
リクエスト下さった美樹様、ありがとうございました

[ 44/50 ]

[] []