非日常も平和に



『王様だーーれっ!!』


部室に私の声が響く。

金持ち学校の馬鹿でかいテニス部の部室にいる者が手にしているのは割り箸。
ただの割り箸ではない。これは王様を決める重要な割り箸だ。


「フッ…俺様だ!!」

『そのまんまじゃねぇか。』

「指令は?」

「そうだな…」



岳人の言葉に、跡部が考え込む。ただいま王様ゲームなう。
この間の大富豪同様、今日も大雨。グラウンドを叩き付ける雨音がこの静かな部室にいても聞こえてくる。


「二番、俺様の肩を揉め」

「ゲッ、俺かよ…。」


嫌そうな顔をして2と書かれた割り箸を見る宍戸。わぁ可愛そうに。絶対に変わりたくないけどね。

渋々跡部の肩を揉み始めた宍戸は、一分程で定位置に戻ってきた。
もう一度割り箸を集め、一斉の声で取る。


「王様だーれだ!!」

『私!!』

「名前かよ…」

『女王様とお呼び!!』

「で、指令は?」

『そうだなぁ…。じゃあこれ着て“お帰りなさいませ、お嬢様”って言ってね一番さん。』


忍足のロッカーからメイド服(多分忍足が造ったんだと思う)を取り出し、一番が名乗り出るのを待つ。
忍足が何か言ってるけど多分しょうもない事しか言ってないだろうから無視ね。
そしてなかなか名乗り出ない一番の人に痺れを切らした岳人が口を開いた。


「誰だよ一番」

「………俺だ。」


最強に殺気を放ち、今にも割り箸を折りそうな雰囲気を纏った跡部が律儀にも挙手した。(超怖い)


『じゃあこれ着てね。』

「断る」

『女王様の命令は絶対だよ?』

「…クソッ!!!」


私の手からメイド服を引ったくり部室から出て行った跡部。ジローと岳人は笑いをこらえている。
樺地は不安そうにキョロキョロと挙動不審。


「何で俺のロッカーにメイド服あるの知ってるんや?」

『この間入れてたの偶然見た。』

「まぁええわ。俺もあれ名前のために作った奴やし。」

『えぇ…キモ。てかあたしにサイズ合わせたんなら跡部着れなくね?』

「まぁ伸縮はけっこうする生地で作っとるからギリギリでいけるんちゃう?」

『じゃあスカート丈はアウトって事か。』

「………あ」


全員が一瞬固まる。
一体何を想像したのか、宍戸は気分が悪そうだ。そして樺地はどんどん顔が青くなっていく。
するとその想像をはるかに超えた実物が轟音と共に部室へ入ってきた。



「お、お帰りなさいませ………お嬢、様……っ」


今まで見た事が一度もない位眉間に皺を寄せてこっちを睨みつける。
しかしその威力は、纏っているその洋服が半減させているように思う。
今にも笑ってしまいそうだ。
ジローと岳人はすでにもう笑っている。

やる事をやり切ってまた部室を出て行った跡部。


もうそこで我慢の糸は切れた。
涙が出るほど笑った。マジで腹筋割れるかと思った。



『ちょっとあれはやばいね!!スカート短すぎてトランクスがパンチラしてたんだけど!!』

「パンチラとか言うんじゃねぇよ!!」

「あれは、あれでええんちゃう?ええんちゃう?」

「完全にアウトだろ、アウト!!!」

『跡部、アウトーーー!!』

「てめぇらの頭がアウトだ………!!」

『げ、あとべ…』


制服を着てさっきの五倍位悪質なオーラを身に纏いわなわなと震えて立っている。
笑い転げていた私達は一気に顔を青くした。



「おい、続きやるぞ」


黒い笑顔で床に落ちた割り箸を拾い集める跡部にに私達は呆然。
何も言わず定位置について跡部が所持している割り箸に手をかける。


「キングは誰だ」

「ウス…」


小さく手を上げたのは、大きい図体の樺地。ニヤリと口角を上げた跡部と、先が読めてしまい一気に顔が青ざめていく私達。


「樺地、わかってるな?」

「ウス」


樺地は跡部に先が赤く塗られた割り箸を手渡した。予想通りとなってしまい、肩を落とす。


「五番の名前、これを着て俺に仕えろ。」

『ちょっと待っておかしいだろ!!何で五番があたしだって知ってんだよ!!』

「俺様のインサイトを甘く見てんじゃねぇよ」

『たかが王様ゲームでインサイト使うな!!!!』



ドヤ顔でメイド服を差し出す跡部。そしていかにも着てくれと言わんばかりの視線で私を見る。

そんな目でみるんじゃねぇよ、気持ち悪い。


とりあえずあまりにも跡部が怖いので、渋々私はメイド服を持って部室を出た。
部室の横には更衣室兼シャワールームがあり、鍵をかけて制服を脱いだ。

着てみると案外しっかりした生地だった。スカートは鬼級に短いけど。


『クソ、跡部の奴。樺地が何も言えないからって勝手な事しやがって。これからアホべって呼んでやろう。』

「アホはお前だろうが」

『あ、跡部!!』


文句を言いながら更衣室を出ると、壁に寄りかかっている跡部を発見。
ドヤ顔してるけどお前だってさっきこれ着たんだからな。


「悪くねぇな」

『パンチラしてたお前に比べればな。』

「ほら、言えよ」

『何をさ』

「“お帰りなさいませ跡部様”」

『言わねえよ!!!!!』

「仕方ねぇな…。忍足!!お前これの他に何か作ってねぇのか?」

「もちろんあるで!!」

『何でいんだよ』


どこからともなく返事をしてきた忍足の手には、メイド服だけでなく魔女っこやらミニスカポリスやらセーラー服やらが握られていた。



「これから一週間、これを着て仕事しろ。」

『え、ヤだよ!!』

「てめぇに拒否権なんざねえよ」

『お前何様だよ!!』

「俺様」

『死ねええええええええ!!!!』




結局地獄の一週間、ずっとミニスカを履いて仕事をさせられる羽目になった。
どの服もサイズは私にぴったりだった。






非日常も平和に


《あ゛ぁ〜寒っ、コラ写真撮るな忍足。そしてスカートの中覗くんじゃないよ岳人。》
《お前いい足してんな名前》
《…今すぐお祓いに行って来な岳人。あんた忍足の思想が移ってるよ。ダブルスって大変だね。》
《名前ちゃん可愛え!!!!》
《お前は死ね忍足》




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リクエスト下さったdaia・。・。様ありがとうございます!!

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