怒りと悔しさ
あの後如月から事の経緯を聞き、俺達は部活に戻った。
今すぐに先輩達を殴り殺したい。あの人達は何で如月の事を信じなかったんだ。
何でずっと俺達のために頑張ってくれてた如月じゃなくて、最近入ってきた奴をあっさり信じたんだ。
悔しかった。今までの如月の頑張りが全て無駄になったようで悔しかった。
「跡部さん」
「あ?やっと帰ってきたか。」
「如月の事なんですが」
如月の名前を出した途端、表情を歪めた跡部さん。
そんなに不満か。あんた如月の入部をあんなに歓迎してたじゃないか。他の女とは違って如月は優秀だと褒めていたじゃないか。あんなに如月を気遣ってたじゃないか。
何が不満だ?
如月の何があんたをそんな顔にさせる?
「お前らもう如月と関わるな」
「何故ですか」
「あいつは猫被ってやがったんだ。俺達を騙していた。紗江をあそこまで追い詰めて泣かせた。」
「如月だって泣いています」
「だからなんだ。どうせお前らを味方につけるための嘘泣きだろうが。騙されんじゃねぇ」
「騙されてんのはあんただろうが」
「日吉…」
鳳が段々口が悪くなってきた俺を止めに入った。
その間に跡部さんは休憩の指示を出していて、ベンチの所へ向かっていた。
「待てよ…!!話はまだ終わってねぇだろ!!」
「日吉!!今日吉が暴れたってどうにもならないだろ!!?」
「クソ…っ」
俺はラケットをコートに叩き付けた。視界の隅で如月がドリンクを運んでいるのが見えた。
吹っ切れたのか、その振りをしているのか、いつも通りの仕事を淡々とこなしていた。
ドリンクの入った籠を抱えてレギュラーコートに入り、跡部さんから順番にドリンクを渡していく如月。
しかし跡部さんは口をつけもせずにそのドリンクを如月に頭からかけた。
「おい…嘘だろ」
「跡部さんが…」
俺も鳳もその光景に絶句した。
人はこうも簡単に手のひらを返せるのか?
如月は泣くこともせず、籠を抱えてコートから出た。他のコートにもドリンクを配りに行ったのだろう。
「跡部さん…あんた今」
「あんな奴が作った物を俺様が飲むわけないだろ。」
嫌味な笑みを浮かべながらさも当たり前だと言わんばかりに言い放った部長。
俺は戦闘態勢に入っていた。今すぐに殴りかかるつもりだったのを、鳳が制した。
「先輩、俺ずっと先輩方の事尊敬してきました。
だからいつ真実に気づくか待っていたんですけど、だめみたいですね。」
「何が言いたいんだ長太郎」
「あなたたち、ただのスポーツ推薦で入学したただのお馬鹿さんですか?。こんな単純な事に気付かないなんて。志帆ちゃんには俺達から言っておきますね。もうレギュラーの分のドリンクは作らなくていいよって。
取り敢えずお前ら水分不足で死んどけ(黒)」
「お、鳳…」
「志帆ちゃん帰ってきたみたいだから行くよ、日吉」
「あ、あぁ…」
レギュラーコートから鳳と共に出る。
後ろを振り返ると、ほぼ放心状態の先輩達。
鳳の言葉の暴力(全員の心臓にロケラン打ったみたいな感じ)は相当堪えたらしく、誰も何も反論はしなかった。
俺も何故かダメージを食らい、ため息を吐きながら部室の扉を開けた。
部室に帰ってきていた如月は、着替えようとシャツを脱いでいた所だった。
タイミングが悪かった。
急いで扉を閉めたが、中からの罵声が聞こえてきて更にダメージ。
『最低っ!!日吉最低!!』
「何で俺だけなんだよ!!鳳も樺地もいるだろうが!!」
『日吉ずっと見てた!!』
「見てねぇよ!!つか手当ての時にお前の体なんかすでに見てるっつーの………あ。」
失言。
部室の扉がけたたましい音を響かせて開き、中から顔を真っ赤にした如月が出てきた。
『日吉最低!!変態!!痴漢!!馬鹿!!』
「おま、手当てしてやったんだから感謝しろ!!」
『うるさい変態きのこ!!』
「ちょっと二人とも落ち着いてよ。取り敢えず志帆ちゃんシャワー浴びおいでよ。体じゅうべとべとで気持ち悪いでしょ?
後の仕事は俺達が適当にやっておくからさ。」
『…でも』
「大丈夫」
『うん、ありがとう。なるべく早く戻るから』
「わかった」
鳳に満面の笑みを浮かべて頷く如月。
何だその俺との差は。
シャワールームに走っていった如月を見送り、俺達は部室に入った。
「酷い目にあった…」
「まぁいいだろ?志帆ちゃん、いつも通りに笑ってたよ。」
「あぁ」
鳳の言葉で俺は少し安心した。
確かにこんなやり取りを如月と何回もしてきた。(別に何度も着替えを見たことがあるわけじゃない)
如月の笑顔が見れただけでも良しとしよう。
あと、この精神的ダメージを回復させる術をどうにかして探そうと思う。
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