ブサイク

俺達は何をしていたのだろう。


鳳と言い合いをしながらの外周だった。
学校に帰ってくると、如月の姿が見えない。


「如月がいない」

「相変わらずだね、日吉」

「替えのタオルが欲しいだけだ」

「素直じゃないなぁ」


鳳が俺を見て笑う。その顔すごいムカつくな。
睨みつけてみるが効果はない。へらへら笑ってやがる。

諦めて俺は部室へ向かう。
部室の扉を開けてすぐ目に入ったのは倒れている如月だった。俺は如月に駆け寄って体を抱き上げる。

何故かついてきた鳳もその光景を見て部室へ急いで入っていく。


「如月!!!」


体を揺すって名前を呼ぶ。しかし反応はない。
もう一度名前を呼ぼうと息を吸った所で鳳に静止させられる。


「待って日吉。志帆ちゃん怪我してる…」

「は…?」


良く見ると腕やふくらはぎに切り傷があり、血が滲んでいる。
頬も赤く手の跡がうっすらついている。
ジャージのチャックを下ろし、着ているTシャツを捲ると腹部には青紫の痣がいくつも出来ていた。

絶句した。



「後で怒られるかもだけど志帆ちゃんの治療しよう。」


鳳に言われたとおりに包帯や湿布で如月の体を覆う。
部室から出てこない俺達を不思議に思ったのか、樺地も部室へ来た。


「如月…」


一通り治療をすませ、俺はもう一度如月の名前を呼ぶ。
やはり依然として応答はない。鳳が呼びかけるが変わらない。


「如月!!」


音量を上げて何度も呼びかける。
何回目かに如月の手が動き、目を覚ました。
体を起こそうとした如月はすぐに蹲った。鳳が声を上げる。


『何、コレ…』

「…俺達がやった。初心者なんで大分ガタガタだが、やんないよりマシだろ。それより何があったんだ。」


誰にやられた、とは聞けなかった。
絶対にやったのは先輩達だって、なんとなく思ったから。
それを察してか、如月は俺達に謝り、仕事の続きをしようと立ち上がった。

その姿は痛々しかった。それと同時に悔しくて、腹が立った。
痛みを我慢しているのがバレバレで、今にもしゃがんでしまいそうだった。


「如月…」

『練習行きなよ』

「…何で本当の事言わないんだ」

『日吉達には関係ない。』


その言葉は、俺の怒りのストッパーを外すには十分すぎるものだった。


「関係大有りだ!!隠し通せると思ってんのか!?どんだけお前と一緒にいると思ってんだ!!キツそうに体引きずって歩いてんのなんかバレバレなんだよ!!
何言われても俺達はお前を信じる。お前の味方だ。」


如月が目を大きくして俺を見る。頷くと、如月は地べたに座り込んで泣き始めた。
お、おいマジかよ。俺なんかしたか?


「あ〜ぁ、泣いちゃった。女の子泣かすなんて最低ー」

「うるせぇ」


一向に泣き止む気配がないので、取りあえず頭を撫でた。
ぐしゃぐしゃになった髪と、ぐしゃぐしゃになった顔で、如月はありがとうと言った。


「ブサイクだな」


と言うと、如月はムッと顔を歪めた。
俺はジャージの袖で如月の顔を拭った。


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