助けて


私が和博君に出会ったのは中学生の時だった。
家族以外の周りの人間は私にとっては敵だった。

人よりも少しませていて、今思えばただの子供だったのだけれど、あの時の私は自分を周りの人間とは違って大人だと確信していた。
くだらない話題で盛り上がる女子も、くだらない恋に目を光らせる男子も、生徒思いのフリをする教師も私には子供に見えた。

男子は無条件に私の元へ来た。
外見のみの点数はかなり上位だっただろうと自負している。だからか、私にとって寄ってきた男子達への関心など皆無だった。

それでも事を大きくせず対処するのが大人、そう思っていた私はもう自然に出す事が出来るようになった所謂営業スマイルと呼ばれるモノで波風ひとつ立てずに全ての物事を処理した。


そんな時だ。

周りと違った雰囲気を持っていた彼、瀬野和博と出会ったのは。


瀬野和博は誰よりも大人びていた。
口調も、使う言葉も、仕草も全てが。

私は彼を好きになった。

遠巻きに私が彼を見ている事に気付いたクラスの男子が和博に面白がって言った。





“転校生がお前の事見てるぞ瀬野!!”

“瀬野のこと好きなんだろ、絶対”

“告っちまえよ、瀬野”



何て勝手なのだろう。事実、私は彼に惚れていたけれど。あぁ、やっぱり子供だ。
私はため息をついた。



“面白がって勝手な事言ってんな。仮に彼女が俺を好きでもお前達がそれを弄んで囃し立てる権利は無いだろ、違うか?”


そう一言彼は場かな男子達に言い放った。
なんて格好良いのだろうか。私は見惚れた。


“悪かったね与那賀さん。でもこいつらだって悪気があって言ってるわけじゃないんだ。悪い奴らじゃないんだよ。許してやってはくれないか?”



私は首を縦に振った。
それしかあの時の私には出来なかった。





************



それから私は彼との関係を作るために尽力した。
他人にこれだけの時間を割いたのはこの時が初めてだった。

そしてしばらく経った頃、彼が照れながら私に好きだと言ってくれた。
どれほど嬉しかったか…っ

付き合い始めた私達を家族は祝福してくれた。


二人で何度か体を重ねて、私はもう彼のために命をも捧げるほど彼に心酔していた。
彼を信じていた。


そんな時だ。


彼に呼ばれて、私は何の疑いも無く彼の家へ行った。
部屋で待っていて欲しいと言われていつも私が座っている所へクッションを抱きかかえて座った。

彼が早く来ないかな、と待ち遠しかった。

彼は戻ってきた。
たくさんの見知らぬ男を引き連れて。


それからの記憶は酷いものだった。
知らない男に触られ、弄られ、たくさん泣いて、たくさん喚いた。
何度も和博君に助けを求めた。

縛られて身動きが取れない手を足を。
全てで彼に訴えた








助けて、と。










それでも彼はただいすに座って私を見ているだけだった。
終始不気味な笑顔を浮かべて私の事を見ていた。

その間も私の体は知らない男に弄ばれていた。
もう意識も感覚も、何も私にはなくなっていた。

その男達がいなくなって私が目を覚ますと、元いた彼の部屋だった。
顔は涙に濡れていた。

あぁ、夢だったのか…

そう安堵したのも束の間、縛られて動けない自分の体と何も身にまとっていない自分。
床の上には自分の衣服、そして彼が座って私を見下ろしていた位置にはいすが。

恐怖した、逃げ出したかった、叫んだ、

彼の名を何度も呼んだ。
そしたら彼はいつもの大人びた笑みで私の傍に来た。



“すごい嫌がってたな、そんなに俺じゃなきゃ駄目か?”

“悪いが俺はこういう性癖なんだよ。”

“「強姦」を「視姦」するのが好きなんだ”

“そうだよ、その顔。裏切られた時のその絶望感がたまらない。”

“どうだ?悔しいか?俺を殺したいか?”

“あぁ、縄を解いてやらないとな”

“お前程俺に執着して俺に惚れこんだ女はいないよ”

“その分、「強姦」されてる時の顔はたまんなかったけどな。”

“いいもん見してもらった”

“お前はもう用済みだ、いつまでも人のベッドに寝っ転がってねぇで帰れよ”



タバコを咥えて彼はそう言い放った。
私は適当に服を拾って羽織、そのまま家に走った。

外は土砂降りで、朝方だというのに真っ暗だった。
真夏のなんて暑い日だったことだろうか。

雨と汗で私の服は体に張り付いていた。
気持ち悪い、脱いでしまいたい。
でもあの男達に触られた体を、誰かに見られたくない。

どうしようもない葛藤に、私はその場に座り込んで泣いた。
誰もいないのを良い事に、泣き叫んだ。



“夏美っ!!!”


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