つないだ手、つながれた手



「跡部君…」

「何だ?」


腕の中の夏美が俺を呼んだ。その声は弱々しくて消えてしまいそうなほど小さかった。


「起きたら全部話すから…。だから、私が目を覚ますまで傍に……」

「…夏美っ!!」


夏美の体から力がふっと抜けた。
急いで抱えると小さく、けれど確かに聞こえる寝息。あぁ、寝たのか。

夏美を横抱きにしてソファに連れて行った。俺はソファに腰掛けて夏美の頭を俺のひざに乗せて寝かせた。

頭を撫でてやった。手を握ってやった。

目の下のくまを見るとしばらく眠れていなかった事が伺える。
指先も冷たかった。俺は自分の体温を夏美に分けてやった。




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温かい…。


優しい…。



そんな夢だった。ふわふわしていて夢の中でも眠れてしまいそうな、そんな夢を見ていた。

眠るのが怖くて、あの日の夢を見るのが恐ろしくて。
私はしばらく眠れていなかった。

目が覚めて一番に見たのは跡部君が優しく微笑む顔だった。
私の右手は大きな手に握られていて心地のいい温もりに包まれていた。

あぁ、あの温かくて優しい夢は彼のおかげだったのか。
そう起き抜けの頭で考える。


「何か飲むか?」

「ううん、いい。」


優しく彼が頭を撫で、髪を梳いた。もう少し、彼に甘えてみようかな。
そしたらこの男は調子にのるかなぁ?


「おはよう、跡部君」

「あぁ、おはよう。随分長い間寝てたもんだな。」

「手、ずっと握っててくれたんだ…」

「傍を離れるなと言ったのはお前だぞ」

「うるさいなー」

「我侭なお姫様だな、まったく」


私は体を起こした。
手はずっと握ってもらったまま、体を起こして跡部君の隣に腰掛けた。


「跡部君、私を嫌いになって?」

「それはまた随分な我侭だな」

「我侭言ってごめんなさい」

「お前が今から話す事は、俺に嫌われるような事なのか?」

「うん、きっと…。言ったでしょう、私は汚いって。」

「馬鹿言うなよ。やっと好きな女が俺に自分から近寄ってきたのに離せるか。」


頭を軽く小突かれた。
さも不満です、な顔をして彼を見ると彼は笑っていった。


「余計な心配しなくても俺はお前を嫌いになったりしねぇよ」


キングだからな。
何て、何の根拠のない馬鹿げたことを言ったこの男に、少なからず私は心を許してしまった。





私の話を聞いても、あなたはこの手をつないだままでいてくれますか?


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