美しさ溢れ、涙溢れ
俺はいつしか夏美に触らせてもらえなくなった。
あれから夏美の傍を離れないように心がけた。
一緒にいたかった。
俺を頼って欲しかった。
少しでも抱える痛みを分けて欲しかった。
しかしこの間、廊下でよろけた夏美を支えようと腕をつかもうとしたらはたかれた。今でもその跡と感触は手に残っている。
“…っ触らないでっ!!!”
“あ…ごめん、跡部君…”
“てか何紳士みたいな事しようとしてんのよバーカ!!”
すぐに夏美は元の自分に戻したものの、最初の拒絶反応と謝罪は本物だった。
本当の夏美だった。
あぁ、何か痩せたんじゃないか。
ちゃんと食べてんのか、ちゃんと寝てんのか。
寂しくないか、泣きたくないか?
俺は払われた腕を動かしてつかもうとした夏美の腕を引いて走る。
いきなり引っ張られて驚いたのか夏美は自分の持っていた荷物を廊下に落とした。そんな事はもう知らない。
つれてきたのは生徒会室。スペアキーを使って室内に入って鍵を閉めてやった。
職権乱用?んな事はどうだっていい。
「な、何…何なの馬鹿………」
明らかに動揺している夏美を抱き寄せた。
初めて女を抱きしめた。ふわりと言い香りがした。
「な…!!ちょっと、離して!!」
「逃げるな」
「汚いから…!!!だから、駄目だから…」
「お前は綺麗だ」
*********
“お前は綺麗だ”
私はこの言葉を聴いた瞬間動けなくなった。
あぁ、この人と和博君は何て似ているんだ。親戚か何かか?
「お前は綺麗だ。汚くなんか無い」
「何を…」
「この俺様をここまで本気にさせた女が汚い訳無いだろ」
抱きしめている腕がいっそう強く私を締めつけた。
何て心地良いんだろう…。このまま眠ってしまいそうな程だ。
そういえば、私一体どの位寝てないのかな…。
「好きだ、夏美…。だからお前の背負ってるもん、少し俺に寄越せ。」
馬鹿、そんな事言われたら甘えてしまうよ。
誰にも心も体も許さないと決めたのに、揺らぐ。この男は私の守ってきたものを壊して私に手を差し伸べてくる。
痛いほどに、思った。
彼のほうが綺麗だ、と。
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