敵の男
「カズヒロって誰だ」
「…何処でそれを」
「夏美がその名を何度も呼んだからだ」
自分の姉妹の事だ、春樹に話を聞こうと声をかけた。
カズヒロという名前を出した瞬間、春樹は俺と距離を取ろうとした。それ程にカズヒロという人間はこいつらにとってデカい存在なんだろうか。
「夏美が昔付き合ってた奴だ」
はき捨てるようにそう言った春樹から推測するに、そのカズヒロは違う意味でこの姉妹にとってデカい存在なようだ。
「…敵だよ」
「春樹?」
「夏美を傷つけるようなあんな男、私たちの敵だ。」
春樹はそう言って去っていった。
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なんて酷い対応だ。
後で跡部君には謝っておかないと。悪いことをしてしまった。
跡部君から離れて、私は部室前まで来た。
ここからテニスコートは良く見える。何を考えているのか全く分からない、冷たい表情をしている夏美も見える。
仕事を淡々とこなしてはいるが、心ここにあらずと言った状態だ。
「春樹ちゃん…」
「冬香…」
「私、思うよ。いつもこの時期にこうなっちゃう夏美ちゃんを変えてくれるのはきっと跡部君だって。あの夏美ちゃんを珍獣呼ばわりしてくれる位だし」
「…冬香がそういうなら、そうなんだろうな」
「跡部君に謝るのはもうすこし後でもいいと思うよ。今跡部君はどうしたら夏美ちゃんを助けられるか考えてる。今の跡部君の頭の中は夏美ちゃんの事でいっぱいだよ」
「そうだね、さぁ仕事に戻ろう」
「うん」
もうあんな夏美を見たくない。
でもこれからもずっと夏美と一緒にいたい。
跡部君、君に託すよ。私たちでは出来なかった事。
夏美を助ける事。
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