俺が変える
「暑くなってきたな」
「そうね」
「…どうしたんだ夏美」
「何が?」
「具合でも悪いのか?」
「…別に」
夏美と春樹の会話がぎこちない。俺は傍から見ていてそう感じた。あの仲のよい姉妹が何故こんなにもギスギスした雰囲気なのだろう。
春樹を見ると、喧嘩をしたような感じではない。
「冬香、あの二人どうしたんだ」
「夏美ちゃんと春樹ちゃん?この時期はこうなの。仕方ないの。」
冬香に尋ねると、特に不思議がる様子もなくそう言った。まるで何もかも見通しているかのような物言いに少し寒気がした。
転校当初は珍獣呼ばわりしていたが、今の夏美には珍獣の感じはない。異常に静かで、常に呆けていることが多くなった。
「この時期ってどういう事だ?」
「それは今は言えない。春樹ちゃんの時と一緒、今の跡部君には言えない。それだけ。夏美ちゃんにとっての跡部君が今不安定だから。」
「俺が不安定…?」
「跡部君自体は不安定じゃないよ。不安定なのは夏美ちゃん。夏美ちゃんの中の跡部君のイメージみたいなものが不安定なの。このイメージがどう変わっていくかは跡部君次第。」
「俺次第…」
俺次第で何かが変わるのだろうか。
あの夏美の寂しそうな顔を変えられるのだろうか。
俺はいまだ何を考えているのかわからない夏美の横顔をただ眺めた。
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