もう夏はすぐそこに。



「…春樹ちゃん、だよね…?」

「何だよ夏美、その顔は。似合わない?」

「いやそうじゃなくて…」


“おどろく”もうそんな四文字じゃ言い表せないほど夏美は驚いていた

私は放課後、萩に頼んで髪を切ってもらっていた。
たまたま美容院に行きたい、と呟いた私の声を萩が聞いていて切ってくれたのだ。腰のあたりまであった長い髪を秋音より短いくらいまで切ってみた。

首元が何だか少し寒い気がした。
そのまま部活へ行くと、夏美達が驚いたように私を見た。


「え、ちょ。今切って来たの?」

「うん。萩に切って貰った。遅れてごめんね跡部君。」

「いや、別にそれは構わねぇが。また随分思い切ったな…」

「気分転換にね。もう何年もあの髪型だったから。変かな夏美」


いまだ放心状態の夏美に声をかけると、びっくりした様に肩を揺らして私と目線を合わせた。


「かわいい、似合ってる春樹ちゃん」

「ありがとう。ところで報告があるんだけど聞いて」

「うん」

「私、萩と付き合う事になりました」

「知ってる。良かったぁ…滝君を制裁しなきゃいけなくなったらどうしようかと思ったよ、ねぇ冬香」

「ホントにね。春樹ちゃんも最初の時よりずっと滝君を好きみたいだしね。でも何で報告するだけなのに付き合ったその日にしてくれなかったのかなぁ」

「そ、それは………」

「春樹が恥ずかしいって渋るんだ。俺はすぐにでも言おうと思ってたのにさ。」

「萩!!」

「あ、内緒だった?」


私達のやり取りに周りが笑った。珍しく秋音も笑っている。
もう桜はとうに散ってしまい、緑の葉が風に揺られている。
部活中も長袖長ズボンで練習する部員はもうほとんどいない。


もうすぐ夏がくる。




―春編・完―


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