無理が祟ってC
萩は私の手を握っていた。
大きくて、硬くて、温かくて私は泣きそうになった。
「…合格だったんだね、萩は」
「何の事だい?」
「知ってるよ、全部。夏美と冬香がグルで動いてる事位。」
「そっか。なら話が早いね。」
「萩…私の事嫌いにならないでくれる?ずっと側にいてくれる?」
「当たり前でしょ」
萩はそう言って私の頭を撫でた。
頭を撫でられたのは何年ぶりだろう…。誰かを撫でるのはあっても撫でられるのはあまりなくて、恥ずかしかった。
「…ありがとう、萩。じゃあ話すね」
萩は優しい顔でうなずいた。
私は十年前の出来事を思い出しながら話した。父がどんなに優しい人間であったか。どんなに父を尊敬していたか。
母が、妹達がどんなに父を愛していたのか。
萩は私の手を握ったまま相槌を打ちながら聞いていた。
家に空き巣が入った事
強盗がまだ家に残っていて私達は油断していた事
私が強盗に襲われて刃物を向けられた事
父が必死になって私を助けようとした事
私は何も出来ずに泣き叫ぶだけだった事
…父が刺されて死んだ事
もう十年も経ったのに、もう慣れたはずなのに。
涙が流れていく。人前で泣くなんてみっともない。私は長女なんだからしっかりしないといけないのに。
「これが、私がした事」
「知ってる」
「…夏美か」
「口止めされてたんだけどね。あのね、春樹」
「何?」
「俺は春樹の事が好きだよ」
「きゅ、急に何だッ!!」
「だって春樹、俺のこと警戒してるっぽいから。
さっきも言ったけど俺は春樹から離れたりしないよ。それに夏美や冬香とも約束したしね。
あのね、春樹。君はもう自分を責めなくていいんだよ。夏美達は君の事憎んだりなんかしてない。」
「夏美は優しいから…」
「違うよ。優しさなんかじゃない。春樹の事が好きで仕方ないんだよ。
楽しんだり、笑ったりしても誰も春樹を責めない。こうやって無理したら制裁にあうとは思うけどね。」
「…萩」
「皆春樹の事が大好きだよ。誰も春樹を憎んだりなんかしてない。
もしそんな奴がいたら俺と夏美で報復するからね。」
「ありがとう、萩。」
萩が笑って私の頭を撫でた。
とりあえず今は萩に甘えてみようと思う。
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