無理が祟ってB
「冬香、準備はいい?」
「うん、大丈夫」
「わかった。じゃあ始めるね。」
四女である冬香を交えて俺は春樹の話を聞いた。
深刻そうな顔をして夏美が口を開いた。
「まず最初に…。春樹ちゃんは小学生の頃父を殺したの。」
「は…?」
殺した?どういう事だろうか。
何か不幸な事故で、とかではなくて…?
夏美の顔を見ると表情がなかった。冬香も同様だった。
一体なんだその顔。憎しみでもない、悲しみでもない、何の感情もないようなその顔は一体何だ。
「私達の目の前で父を包丁で八つ裂きにしたのよ。」
さっきと変わらない表情で夏美はそう言った。
本当に殺されたとして、そんな表情で父の最期を語れるだろうか。俺だったらどうだ?誰かに父さんを殺されてどんな顔をする?
もしかして夏美は嘘をついている?そもそも冬香は何故ここに連れて来られたのだろうか。監視か?何のために?
「夏美ちゃん、もういいよ。」
「…不合格なのね」
「反対、私的には合格。というか今までの人と全然考え方が違う。私がここにいる理由を考え始めちゃったし。」
「気持ちは?」
「消えてない。むしろ更に大きくなったようにも感じる。」
「ちょ、どういう事?話が読めないんだけど。」
「あ、ごめん滝君。さっき言った事全部嘘」
「は?」
夏美と冬香がニコニコと笑っている。何がおかしいのか俺には全くわからないのだけど。
それに夏美の話を制した冬香に、俺の考えが読まれていた。一体どういう事なのだろうか。
てか嘘ってなんだよ。
「混乱してるよね、ごめんね。春樹ちゃんは人を殺したりなんかしないわ。
でも父が死んだのは事実。家に強盗が入って、その時に…。父は春樹ちゃんを守ったの。でも春樹ちゃんは自分のせいで父が死んだと思ってる。
私達から父を奪ってしまったのは自分だって責めてる。そんな事誰も思ってないのに。」
「じゃあ何で嘘なんか…。それに冬香はどうして呼んだの?」
「嘘をついたのは滝君を試すため。私が夏美ちゃんに呼ばれたのは滝君の考えを読むため。」
「考えを読む?」
「そう。私にはそういう力があるの。普段は使わないようにしてるんだけど今回は特別。本当に滝君が春樹ちゃんの事を好きでいるか。
夏美ちゃんの話を聞いてもなおその気持ちに揺るぎがないか。少しでも気持ち悪いとか怖いとか思った瞬間不合格。ぶん殴って一生春樹ちゃんには近づかせない。
でも驚いた…。滝君探偵小説とか好き?いきなり推理し始めちゃうからびっくりしたよ。」
「そうだね。話の途中に私達の顔見たのは滝君が始めてかも」
「それもそうだし、私がここにいる理由を探り始めたり、自分に置き換えてみたり。
そういえば夏美ちゃんが嘘ついてるっていう所まで気づいてたよ。」
「えー!!」
「だから夏美ちゃんじゃなくて秋音ちゃんにやらせればいいのにって言ったじゃない」
「だってぇ…春樹ちゃんの彼氏候補を見つけるのは私でありたいのよ」
「まぁ、春樹ちゃんも滝君の事好きみたいだしね。」
「やっぱり冬香もそう思う?
まぁいいや。兎に角後は春樹ちゃんから話を聞いて。きっと今の滝君になら話してくれると思うから。あ、私達が一枚噛んでるのは内緒よ?」
「部活に戻ろうとしたら全力で止めてね。今日は私達で家事やるからゆっくり休んでって言っておいて。行こう夏美ちゃん」
笑顔で去って行った二人を呆然としながらも見送った。
嵐のようだった。たったの30分なのに異常に長かったような気がする。
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