入部初日A



「滝、宍戸、これドリンク」

「ありがとう」

「サンキュ」

「大変だったでしょ、200人分なんて」

「そうでもない、四人もいるしね」

「春樹は記憶力が良くて本当に助かったよ」

「ありがとう」

「何だお前、四那賀の事名前で呼んでんのかよ」

「だって四那賀さんって言ったら四人振り向いちゃうでしょ?」

「あぁ、成る程な。じゃあ俺も春樹って呼んでいいか?」

「もちろん。あ、」

「どうしたの?」

「二人の事も名前で呼んでいい?」

「もちろんだよ。俺の名前は長いから萩でいいよ」

「俺は亮な。」

「うん。ありがとう萩、亮。」



そう言って嬉しそうに微笑んだ彼女とは正反対に、俺はなんだかもやもやしていた。
春樹の笑顔の裏に時々見える影。
必死に“長女”としての役割を果たさんとするその気持ち。

俺はもっと彼女が知りたい。
もっともっと彼女が知りたい。

四つ子で、苗字呼びをすると春樹以外の子が振り向いてしまうって言うのはもっともな理由だった。
けれど、俺はもっと違う理由で彼女の名を呼びたかった。


同じクラスになってすぐ、俺は彼女に惹かれた。
一目惚れって言うんだと思う。って言っても一目惚れなんて人生で経験した事ないからわかんないけど。

俺の隣に座った転校生、四那賀春樹に少なくとも好意を俺は抱いた。

興味なさそうにしてた宍戸だって、何故か春樹と馴染んでいて、彼も春樹を名前で呼び始めた。

何だ、お前。あんなに朝、興味なさそうにしてたじゃんか。



何かわかんないけど、このもやもやした気持ちは、とりあえずボールを打って発散しよう。


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