私の過去をお伝えしよう




私が小学校低学年の頃、大好きな父が死んだ。


あの日、家族揃って外食に出かけた。
私は父と手を繋いで帰宅した。


その時すでに家は荒らされていて、いろんなものが散らばっていた。
自分達がいない間に誰かが家に入った恐怖に私たちは震え、母や父に抱きついた。

その時父はおびえた表情をした私たちとは正反対に、穏やかな顔をしていた。

そしてこう言った。
俺達がいる時に泥棒がこなくて良かったな、と。
父の言葉といつもの太陽のような笑顔に私たちは安心した。


父曰く、リビングのカーテンが風で揺れていることから、きっとあそこの窓からすでに逃げてしまったのだろう、という事だ。

母は私達姉妹に着替えてくるように言った。
私以外の三人は部屋へ着替えに行ったが、私はトイレに行きたかったので部屋には向かわなかった。


もしあの時私が着替えに行っていたら、未来は少しでも変わっただろうか?


トイレのドアを開けると、中から黒い影が出てきて私の視界を覆った。
急に真っ暗になった視界に私はおびえ、叫んだ。


その声を聞いて一番最初に駆けつけたのは父だった。



《春樹っ!!》

《おとうさんっ!!!》



黒い影は強盗だった。まだ家にいたのだ。
逃げたと見せかけるためにわざわざ窓を開けて強盗は逃げる機会を見計らっていたのだ。

私の喉に冷たく鋭いものがあたる。それが刃物であると気付くのに時間はたいしてかからなかった。


母、そして妹達が血相を変えて父の後ろに来た。


《母さんは夏美達を頼む。春樹は俺が助けるから。》


了解した母は妹達を連れてどこかへ行った。
それと同時に父が強盗に襲いかかる。

私は目を閉じて狂ったように泣き叫んだ。怖くて怖くて仕方がなかった。
自分の体が宙に投げ出されたのを感じ、しばらくして体が床に叩き付けられた。

強盗から開放されたのだ、と私は両目を一気に開けた。


その瞬間飛び込んできた映像は、私が見た生きた父の立っている最期の姿だった。


《お、とう…さん?》


床に倒れこんだ父。広がっていく血。
強盗は焦って逃げていった。

私は父に近寄る。静まった騒ぎに気付いて母と妹達が私達の元へ来た。

倒れ、動かないでいる父に、何かを感じて妹達は黙ったまま息を呑んでいる。
母はその光景を見て一度目を閉じると、私に問いかけた。


《春樹…怪我はない?》

《おかあさん…?》

《怪我はない?》

《…うん、ないよ?》

《そう…。なら良かったわね、お父さん。春樹に怪我はありませんよ。ちゃんと春樹の事守れましたよお父さん。
家族全員怪我ありません。だから安心して眠って下さいね。》


“眠り”母が言ったその言葉が“死”を表すこと位、私達姉妹でもわかった。



父が死んだ。





私のせいで、父が死んだ。


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