いや、少年たちは





準太をベッドに寝かせる。保健室には誰もいなかった。
苦しそうに眉間に皺を寄せる準太と、心配そうに準太を見て泣いている名前。

俺は記憶の断片にあるのとは逆の光景を見ている。
あの時は、ベッドに横たわった名前と泣いている準太だった。



『準太…行くなって言ったんです。』

「…そうか」

『ひとりに…しないでくれって、言ったんです。』

「……そうか」

『私、職員室行こうと思って…走ろうとしたら…』



泣きながらポツポツと喋り始めた名前。
きっと準太は前世の記憶の中の名前と、走り去ろうとした名前の後姿が重なったのだろう。

当然前世の記憶を持たない名前には到底知る由などないわけだが。



『私、何かしちゃったんですか?時々準太が苦しそうに笑うのは、私が何かしたからですか?』

「…違うよ。名前のせいじゃない。だけど準太のせいでもない。」



世界が狂っているんだ、この世界が。

準太を前世の記憶で縛り、何も知らない名前を傷つけ、何も出来ない俺がここにいる。

苦しそうに準太が笑うのは、きっとこの世界のせいだ。
名前の事が昔から好きなのに、好きになってしまったら、思いを伝えてしまったら、名前は消えてしまう。
それを準太は知っているから。だからあいつは我慢して記憶と一緒に想いを引きずってここまで来た。



名前が死んだ17歳のこの季節まで。