もはやもうないと言えるだろう





あの日の走り去っていく名前の背中は俺にとってトラウマだった。
どんなデッドボールより怖い。
お前が走る後姿を見るのが俺は本当に怖い。






「名前、掃除ちゃんとやれっつの」

『準太だって箒もってるだけじゃん』

「俺はいいんだよ」

『理由になってないから!!』


ムキになって俺に反発する名前。あぁ、その顔俺好きだ。笑った顔ももちろん好きだし可愛いと思う。
でもその怒ってるのに笑ってるようなそんな顔、俺好き。




「名前ー原先生が呼んでたよ?」

『あ!!レポート出してないんだ!!』

「あれ今日この間期限だろ?」

『忘れてた…!!』




教室に入ってきたのは名前の友達。こいつの話は俺も良くきく。
原先生という単語が出てきた瞬間名前の顔が氷ついた。

鞄からいそいそとファイルを出し、A4の紙の束を取り出した。




『準太、私職員室行ってくるね!!!』





名前の横を通って教室の扉へと向かった。その後姿が俺の記憶の何かと重なった。

その瞬間体中に何か走って鳥肌が立った。


行くな、行くな…。行ったら死んでしまう。
駄目だ、駄目だ…。俺を一人にしないでくれ。



いつのまにか動いていた俺の体は名前を引きとめ抱きしめていた。

俺はこんなこと名前にする権利がないのに、と思考が回り始めたのはもう少ししてからだった。