アザー | ナノ
 

 
紫煙。
立ち上る白。
彼の吐く毒と私の息がまじる。


「どこに行くの?」

「帰る」


踏みつぶされた雪の上を歩く彼、それについて行く。
いとも容易く進んでいく彼の後を追うのは大変で、暗くなった空も足下を不安定にさせるだけ。
けれど待って、だなんて言うことは出来なくて、精一杯雪を踏んで歩く。皮のブーツを履いてきたのは正解だった。

彼が住んでいるバーへの道はそこまで遠くはないが、雪道ではその労力も二倍。
ちょっぴり疲れてきたが、多分あそこには、


「今日は矢師くん達、いるかな?」

「……さぁな」

「悠ちゃん、もう帰っちゃったかな?
この前言ってた髪留め渡したいんだけど……」

「…………」

「威?」


急に止まった彼は一拍おいた後、私のほうへと向き直りそのまま来た道を戻っていった。
私の腕を掴んで強引に引っ張りながら、


「帰るんじゃなかったの?」

「やめた。
今日は帰らねぇ」

「……和巳さんが心配するよ?」


バーの店長であり、威の親友である久條さんの名前を出してみるが返事すらしない。
ずんずんと雪道を進んでゆく。


「威、ねぇ」


呼びかけても反応はない。
私はただ取られた手にされるがまま、足元に注意しながら彼について行くしかないのだ。
首に巻いていた赤いマフラーが、するりと解けて落ちそう。なんとかあいている方の手でおさえるけど、ちゃんと巻き直さないと……


「手、痛いよ」


痛いというまでではないけど、締め付けられるような感覚が少し嫌だったから。
嘘を吐くようにでた言葉は彼に届いたみたいで、


「……」


彼は無言のまま立ち止まり私のほうへ振り返る。掴んでいた手を離すと、私が片手で押さえていた赤いマフラーをするりと首から抜いた。
冷たい空気が首筋を撫でると、一気に冬が私を包む。あまりの寒さに取られたマフラーに手をかけるが、威は無言のままそれを離してくれない。


「返して」

「……」

「ねぇ、」


小さな力で引っ張るが、彼は動かない。
しばらく互いを見合う時間が続く。


「お前、馬鹿だな」

「っ!?」


嘲るような一言。
それなのに、私は怒ることができなかった。

威はそのまま着込んでいたジャケットを私の頭にかぶせ、インナーを一枚と赤いマフラーだけで再び雪道を歩きだした。


「卑怯だよ!威!」


めったに見せない優しい表情を見せるなんて……。

私も再び、彼のあとを追った。





あのマフラーは蝉時雨の降る今になっても、戻ってこない。




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何描きたかったのか忘れた結果変な終わりになっちゃった。
威はタケルと読みます。





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