ひらりと、色紙が深知の足元に飛んできた。紺色のそれを拾いあげると、眼鏡越しの赤い瞳と出会う。黒いフレーム。 「ごめんね。ありがとう、拾ってくれて」 優しい声音。声の主の髪のようにふわふわとした印象を受ける、柔らかな音。 ピンクのカラーシャツにグレーのニットベスト、クリーム色のスラックスの組み合わせも柔和なイメージを持たせる。ネクタイピンも、可愛らしい猫を模したもので、 「猫、好きなんですか?」 拾った紙を手にしたまま、銀色に輝く猫を凝視した。悠我は一度、何のことだろうかと小首を傾げた。 しかし、注がれている視線の先が己のネクタイに向けられたものだと気付いたのか、一度猫を撫でると綻ぶような笑みを浮かべた。 「それほど好きってわけではないんだけれどね。これは、友人からの贈り物なんだ」 気に入ってるんだよね、と楽しそうに話した。 「女の人ですか?」 「いや、一応男からかな」 「一応って……」 「俗に言う女顔ってやつだよ。ついでにアルビノ仲間」 悠我の集め終わった色紙の束の上に、先ほど拾った物をのせた。深知は窓の外に暗雲が立ち込めている景色を見た。少し前までは綺麗な青空だったというのに。夏の雨は突然だ。 「雨が降りそうだね」 「傘、持ってきてないのにな……」 運がよければすぐに止むだろうが、深知は今日の朝の天気予報を見逃した挙句携帯を家に忘れてしまっていた。 「送ろうか?」 悠我は廊下に誰もいないことを確認してから、ワントーン、ボリュームを下げて深知に耳打ちした。 「今日は残らないから僕が帰るついでに家に寄れるけど?」 「いいんですか?」 「生徒をずぶ濡れにさせて帰すなんて出来ないからね。全然かまわないよ」 「じゃあ、お願いします」 深知の返事を聞くと悠我は心底嬉しそうに笑った。そして、職員室へと軽い足取りで帰っていった。 いつもの場所で。その言葉を残してから、 prev|next |