十五日のバレンタイン




「待てエレン!」

ダン、という大きな音と共にエレンの胸ぐらを掴み壁に追いやる。
チョコを見た途端、急に態度を変えて帰ろうとしたエレンの行動には本気でイライラした。
何のつもりだ。
まるで俺にチョコを渡したかったとでも言うようなあの言葉。

これ以上踏みにじるな。
俺の心臓を痛めつけるな。
そうしないと…我慢できない。

「さっきの言葉はどういう意味だ」

「…え?」

「『チョコを渡せる勇気が羨ましいと思った』と言っただろ。あれは何だ」

「あ、それは別に…意味は無くて」

目を逸らしてそう言ったエレンの瞳から、じわじわと涙が溜まっていく。
分からない。
なぜあんなことを言ったのか。
なぜ目を逸らすのか。
なぜ…

「なぜ泣く…?」

「もう、いいんですっ…諦めたからっ、もう、忘れたいんですっ、!」

ぼろぼろと涙を流すエレンは、力無く床に座り込んだ。
どうすればいいのか分からなくて、ただ指先で頬の涙を拭ってやることしか出来なかった。

「おれっ、…りばいさんのことっ、す…好きなんかじゃ…ない、んですっ…だからもうっ、忘れたい…っこんな、こんな感情…っ…」

「…お前」

「ずっと…ずっと隠して…きたけどっ、今日っ、伝えようと…思って…っ、でも…おれもっあの一部なんだって、思ったら…っ苦しく、なって…っ」

「エレン、何を隠してた?俺に…何を伝えようとした?」

ふるふると震えるエレンの肩を抱き、優しく問う。
ふいに動いたエレンの腕はその肩に掛かっていた鞄へ伸び、何かを取り出した。

「リヴァイ、さんに…っ、伝えたかった…こと…っ、」

ぐい、と胸に押し当てられたのは、綺麗な袋にリボンの付いたものだった。
まさか、と思いリボンを解いていく。
その中に入っていたのは、きっとエレンが作ったのであろうチョコだった。
鼓動が早くなる。もう我慢など出来なかった。
相変わらず目を逸らしたままのエレンを、勢いよく抱き締めた。

「うぁっ、えっ?…リヴァイ、さん…?」

「お前…コレがどういう意味か、分かってんのか?」

「今日は、チョコを渡して想いを伝える日…です、リヴァイさん…」

エレンを壁に押し付けたまま、今までずっと夢の中で貪った唇を奪った。

『愛してる』と、想いを乗せて。


********************


「ん…」

「起きたか、エレン」

「んぅ…は!、…ええと…」

目が覚めたおれは、リヴァイさんの家のソファーで眠っていた。
昨日の出来事を思い出した途端に目を合わせられなくなっておどおどしていたが、上に跨がってきたリヴァイさんのせいでそれも出来なくなった。

「エレン…俺はチョコをあまり好いてない」

「なっ、い、いきなりそんな」

「だから」

「は…はい」

「だから、俺は少し味わえればいい。よって…俺が味に満足したら残りはお前が食え。いいかエレン。」

「は?!わ、わからない!です!!」

うるせぇ、と一蹴され大人しくしていれば、リヴァイさんはおれの上に乗ったまま『心もとろける愛の生チョコバレンタイン』を口に入れた。

「お…美味しい…ですか?」

ぱっと目が合った瞬間、いきなり唇を奪われた。
油断していた唇は簡単に舌の侵入を許す。
チョコの味…そう思えば、さっきまでリヴァイさんが舐めていたチョコが自分の口内に入ってきた。
作業が終わったというように唇を離したリヴァイさんは、糸を引くそれを色っぽい手つきで舐めとった。

「チョコも悪くないが…お前の舌の方が美味いな」

「な、らんれすか、それっ、!」


リヴァイさんと分け合ったチョコは、味見をしたときよりずっとずっと甘かった気がした。





fin.


『心もとろける愛の生チョコバレンタイン』
これもまた素質というものだろう。
エレンの命名センス←

何だか急ぎ足なバレンタイン小説をお読み下さった皆様、ありがとうございました!
本編らしい本編はここまでとさせて頂きまして、ここからのお話はちょっとした続きの話になります。

両想いに気付いた二人。
いったいどんな生活になるのでしょうか…







prevtopnext