背後から抱きしめてキス 


「もういい!出て行きます!」

一等地 高級マンション_最上階。
バタンッ、と大きな音を立てて閉められた玄関扉。
大切なものを失った。もう全て諦めた。
全部忘れようと、色々な思い出も押し入れの奥にしまい込んだ。
がらんと空いた自分の部屋からはよりいっそう喪失感をかもし出している。

あいつ…エレンが出ていってから1ヶ月が経った。
先月の今日、あいつは俺と縁を切って出ていった。
ずいぶん長い間一緒に暮らしていたはずなのに、今では遠い記憶になってしまった。
もう元通りには治せない。

「どうしたリヴァイ。最近ずっと怖い顔をして…部下が怖がるだろう。」

「馬鹿言え…俺は元々こうゆう顔だろうが」

「ははは、そうだったな。…エレン君と何かあったか?」

「別に…勝手に出ていっただけだ。何もねぇよ」

普段と変わらない。朝起きる時間も、会社へ行くのも、上司も仲間も部下も、何も変わらない。
部屋から一匹、うるせぇ犬が逃げ出しただけだ。
何度も自分に言い聞かせるものの、それでもやはりあいつの影を追ってしまう。
街を歩くとき、電車に乗るとき、家に帰ったとき。
何処かにいるんじゃないか、帰ってきてるんじゃないか。バカみてぇに何度も探した。
携帯にも、実家にも電話した。
それでもあいつはどこにもいなかった。本当に消えてしまった。

「喧嘩でもしたのか」

「…」

「リヴァイ…そんなに抱え込むことはない。悩んでいないで話しなさい。」

「…身体を求めた。確かに急だった。悪いのは俺だ。もう諦めてる。」

よく分からない感情を押さえ込んで、カタコトに出てきた言葉。
どう考えたって俺が悪い。あいつの意見も聞かずに無理やり身体を求めた。
出て行かれて当然のことをした。

「諦めた顔には見えないが…リヴァイ。君はエレン君が嫌いか?エレン君は君が嫌いか?非があるのはお互いじゃないのか?」

「俺が悪い」

「そうか…それなのに謝りもせず捨てるのか」

「捨てられたのはどっちだこの野郎…」

「捨てられたのはエレン君だ。まだ分からないか?エレン君はリヴァイという男を挑戦しているんだ。
恐ろしいほどに惚れてしまったリヴァイに、身も心も委ねてしまっていいのか。
本当に好きだからこそ、エレン君は離れたんだ…大切な恋人から。このまま終わってしまえば他に何もなくなる。
きっとリヴァイもエレン君も深く傷つく。このままで本当にいいのか?」

「…あいつとはもう連絡も取れねぇ。俺が改心したところで伝わりゃしねぇよ…」

「運命を信じなさい、リヴァイ。必ずエレン君は帰ってくる。」

会社でエルヴィンに何度も説得されたこともあり、俺はその日もあいつがいそうな場所を通って帰った。
何の希望もなくただひたすら探した。案の定、あいつはどこにもいなかった。
もうこれまでだ。エルヴィンの説得に少しでも感化された自分が哀れだった。
ピ、ピ、とパスワードを入力しロビーに入る。
エレベーターで最上階まで上がり、部屋まであと数歩のところだった。
人の気配がしふと顔を上げれば、そこには扉に手をかけたまま動かない、あいつがいた。
ゆっくりとこちらに向けた1ヶ月ぶりのその顔は、泣き顔でくしゃくしゃだった。
熱い何かが込み上げてくる。
…リヴァイさん、そう呼ぶ声に 何も言えず、言葉にできず、ただひたすらに抱きしめた。
まだ向き合えなくて、正面から抱きしめることはできなかった。
それでもこの温度、匂い、全てに愛しさと安心感があった。

「エレン…悪かった……」

「謝らなきゃいけないのはおれの方です…今までごめんなさい…リヴァイさん…。怖くなって逃げて…あんなことして嫌われちゃったって、ずっと帰れなかったんです…でもこれ以上リヴァイさんを傷つけたくなくて、それで…」

「もういい、…もう、分かった…悪かった…エレン」

「おれたち…元に戻れますか…?1ヶ月前から、やり直せますか…?」

「あぁ…やり直せる。どこからだって、いつだって…お前のためなら」

「…好きです…本当に…」

「…愛してる…エレン」

抱きしめたまま涙を流し愛を呟いた二人は、短いキスで空白の1ヶ月をやり直し始めたのだった。



fin.



キス話なのに
キスシーンが最後だけという
なんともシュールなお話




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