∴ 使徒の日記念文







オルゴールのネジを巻く。繰り返される同じ音色。(ウソだね。オマエが巻いたのは時計のネジだよ)
風に混じる歌は天国への階段。

もう聴きたくない。
だけどいくら耳を塞いでも、聞こえる声など初めから無く。

「星が語りかけてくるなんて、そんなのは幻」

ぽたり ぽたり 雫が落ちる。

世界は暗いのに、目を閉じれば青白い波紋が幾つも輝いて。
それは夜光虫が漂う海。零等星の虚ろう鏡。

指先で触れて、覗き込んでみる。

全く同じ顔なのにやはり性格というものが出るらしい。
僕にはあんな優しい表情は浮かべられない。

叩き割ってやりたい衝動にかられたが、やめた。
粉々の破片にはバラバラの僕の顔が映るだろう。でも向こう側にいた君は二度と映らない気がして。

迷った末にキスをした。
硬くて冷たい感触は、君の唇と程遠かったけど。

与えられた命を這ってでも生きろと?
僕はこんなもの全然欲しくなかったのに。


逆再生 波紋は雫に戻り、水面が静まり返る


傷口からあふれ出す青白い光。
でも痛がる素振りも見せず、君は黙ってそれを見ていた。

君が何を考えているのかなんて僕にはどうでも良くて。
あの時の君は、もう間もなく息絶えるってことくらいしか特徴がなかったし。

僕が君にしたこと。
君の体に潜りこんで、魂を剥ぎ取った。
君の体を乗っ取って、君に成り代わってやろうと思ったから。
君が心底邪魔で、消えて欲しいと願ったから。

拠り所を失った魂が形を失っていく。
ほくそ笑む僕に、君も少しだけ笑ったかもしれない。

僕は完全に勝った気でいたんだ。
君が黙り込んでるのは、もう成す術がないからだと思い込んで。

でも、やはり、一筋縄じゃいかなかった。

魂が消える瞬間。君にとっては最期の瞬間。
突然、君は両手に包んだ光を僕の胸に押し付けた。
それからそっと離れて、呆然としてる僕に向かって。

『それ、オマエにやるよ』

刹那 何が起こったかも分からないまま。
光と共に君は消え、目に映る世界は闇に染まり

気づいた時にはどうしようもない胸の痛みが残っていた。