平行世界の君を思う
2012/09/05 01:26

※現パロ



"君のためなら死んでもいい"
巷にはそんな歌が溢れているが、そのどれもが十代の癇に障るところだった。嫌悪している、とすら言えるかもしれない。たまたま親友と連れだって入ったバーガーショップでそれ系統の曲が流れ出した時には、ポテトやらドリンクやらが乗ったトレイをひっくり返してやろうかと思ったほどだ。
「ったく、何をそんなに怒ってるんだお前は…」
危うくテーブルの上にぶちまけられるところだったポテトをつまみながら、ヨハンが呆れたように言った。
「虫酸が走るんだよ。ああいうの」
十代は天井に取り付けられたスピーカーを指差し舌打ちする。
「何で?」
「だって、"命懸けの恋"だぜ?嘘くせぇ」
言って、右手に持ったバーガーにかじりついた。この店イチ押しだというバーガーはぴりっとしたマスタードが効いていてなかなか美味しい。
「ふーん…」
ヨハンは一度どうでもよさそうに呟くと、目の前のポテトを空にすることに専念しはじめた。(ちなみに彼は既に自分のポテトを完食しており勝手に十代の分に手をだしているのだが、いつものことなのでどちらも意に介さなかった)
店内には相変わらず情熱的な――それゆえに言葉を重ねれば重ねるほど白々しく響く――愛の歌が流れている。
(あぁ、くだらねぇ)
“命をかけて“だの“守り抜く“だの。
この平和な日本で命をかけるような状況になること自体が稀だろうに、いったい何を必死に訴えているのやら。
(第一、絶体絶命のピンチってのは、そこに到るまでに取り返しのつかないミスを犯した奴が陥るもんだ。俺ならそんなヘマはしないね)
十代は咀嚼し終わったバーガーを胃に流し込みながら、ごく冷めた気持ちで聞いていた。
「まぁ、確かに俺もあんまり好きじゃないかな」
ぽつりと、ポテトをさらえたヨハンが呟いた。てっきり終わったと思われた話題は続いていたようだ。目を丸くする十代に、ヨハンは「どうせなら生きて守りたいじゃん」と笑う。
十代は、その言葉に自身の心が芯から冷えきっていくのを感じた。彼は先程とは別の理由で――それも先とは比べものにならないくらいの激しさで――怒っていた。
(生きて、守るだと?――この大嘘つきが!)
「…十代?」
突然黙りこんでしまった親友を翡翠が不思議そうに見やる。
(――っ!そうだ…"この"ヨハンは違う…)
はっと我に返ると、十代は喉まで出かかった罵りの言葉を飲み込み、下手くそな笑みを作った。





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