伊作×文次郎×伊作
2011/05/26 21:58

文伊(伊文)

「ぐえっ」

胸倉を捕まれた。次いで、大きく利き手を振りかぶったのを見て死んだと思った。怪我と薬で動けない体を恨む。……自業自得だったのだが。
ブンっ、と風を切る音がした。

「何なのお前馬鹿なの死ぬの阿呆じゃないの何だよもうそんなに死にたいの死にたいんだじゃあ僕が殺そうかこの馬鹿ぁっ!」

しかし、くると思った衝撃は想像よりも酷く小さいもので、ぺちんと情けない音を立てた。それでも痛い事には変わりは無かったのだが。何がって、叩かれた左頬が。ああくそ、地味に痛い。

「……ほんっと、文次郎なんて嫌いだよ。なにさ、僕をこんなにして楽しい訳?君が大怪我を負ったって聞いて僕がどんなに怒ったか分かってる?……ったく、文次郎ごときのためにこんなに感情出すなんて僕もまだまだだよ。いくら忍者に向いてないって言われてもさ六年生ってプライドがあるんだよこれでも一応」
「…い゙っ」

俯いてぶつぶつと小言を言ったかと思えば、唐突に胸倉を掴んでいた手を離された。力が入らない上半身は重力に従い、布団の上に落ちた。一瞬、呼吸が止まる。落ちた時の衝撃でずきずきと怪我が痛みだす。
そんな俺の様子をちらとも見ずに、伊作はさっさと薬棚へと体を向けた。そのままごそごそといくつかの薬草を取り出す。

「全くさあ、自分を大事にしろって何っ回言っても聞きゃしない。君なんかの為に出す薬が勿体ないよ、もう。次こんなことがあるようならうちの予算上げてもらうよ?会計委員全員分の薬代、ちゃんと書き留めてるんだから。その中でも君はぶっちぎりだよ。分かってんの?」
「……伊作」
「何さ!言い訳でもしようっての?」

きっとこちらを睨み付けた瞳が、うっすらと涙をにじませていた。



prev | next





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -