<獣>

しおりを挟む

|



ここはとある島の店、Luna。名のある大海賊の一人娘名前が経営している。

「お客さま、従業員に手を出されては困ります。どうか、お引き取りを。」

お触りは禁止のこの店で時々、お酒を飲みすぎて悪酔いした客が、女の子に手を出すことがある。その時の対処は全て名前の仕事だ。

「そう固いことを言うなよ。俺達は客だぜ?金だってちゃんと払ってんだ。これも一つのサービスじゃねェか。」

「そうですか。では、仕方ありませんね。」

名前は小さなナイフを胸元から取り出すと、男の胸に突き刺した。グフっと声を立てて倒れる男。

「やりやがったな!?」

「私はちゃんと忠告しましたよ。このお店では、この店のルールに従って頂きます。それとも...殺りますか?」

「調子に乗るなよっ!!」

“ROOM”

小さな低い声が聞こえたかと思うと、その男たちだけに向けて斬撃が飛んだ。バラバラになった彼らの身体。だが、不思議なことに血は一切流れていない。
名前が見つめた先には長身の男がいた。どうやら、先程の斬撃はその男の抱える刀から発せられたものらしい。

「おい、そこのボーイ。目障りだ、こいつらを片付けろ。」

「は、はいっ。」

「美味い酒が飲みてェ。」

後ろに数人とクマを従えて、店に入ってきた男は案内も受けずに奥の席へと進む。髑髏をモチーフにしたマークは、一目見て海賊だということを知らせる。

(生意気な...ガキね。)

名前はサッとドレスを整えると、男の横に立つ。それに気が付いた男は、名前を見つめると「いい女だ。」とだけ呟き笑った。
指で自分の横を指し示す。座れということだろうか、名前も静かに微笑み返した。と、同時にこの男に興味を持った。大海賊の一人娘に、このような態度を取る男は久しぶりだったからだ。

「助かったわ、ありがとう。名前は?」

「トラファルガー・ロー。」

「あぁ、知ってるわ。最近世間を騒がしているルーキーね。私は...。」

「名前。大海賊の一人娘、だろ。強く気高く美しい、噂通りだな。腕も確かなようだ。」

「光栄ね。」





若いから、ただ大量に酒を飲むだけだと思っていた。だけど、この男は違う。他の船員達が湯水のように酒を流し込む中、静かに酒の味を愉しんでいる。自分がいい男だということを知っている。
グラスの中の氷が、カランと音を立てた。

「俺の女にならないか?」

「急に何を言い出すかと思えば...。ロー、貴方は女の扱いを知らないのね。」

「ククッ、言ってみただけだ。それに...。」

そう言って、グラスの酒を流し込む。そして、名前の頬に手を添えるとグイっと自分に引き寄せた。触れ合う唇。隙間をこじあけるように、ローの舌が名前の中へ入り込む。
酒の味が口の中に広がった。

「ん...。」

男と寝た夜を数えきれないほど経験してきた。当然キスをしたことなど星の数ほどある。だが、このキスは今まで経験したどのキスよりも甘く激しい。とろけてしまいそうな感覚に、名前から小さな声が漏れる。
口角から溢れた酒が、名前の肌を伝い落ちた。

「女の扱いなら知っている。」

挑戦的な笑みだ。油断するとすぐに噛みついてくる、手の負えない獣。
こういう男が一番嫌だった。嫌いなはずだった。





しおりを挟む

30 / 40
|

目次へ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -