<本当の気持ち>
飽きもせず、ローは毎晩店に通ってきた。次の島へのログは1週間で溜まる。そろそろ顔も見なくて済むのかと思うと、ほっとした気持ちになった。
そろそろ時間だ、今日も店に来るのだろうか。
開いた扉。名前は「いらっしゃいませ。」と扉の前で頭を下げて客を迎える。だが、誰が来たのかということはすぐに分かった。
コツコツと聞こえてくる音が大きくなったかと思うと、自分の前で止まった。
「また来たのね。」
「お前を俺の女にしたいからな。」
「冗談言わないで。」
呆れまじりに名前は笑う。自分は気高い大海賊の娘。男におちることなど、許されなかった。
席にローを案内し、ボーイにいつものものを持ってくるように指示を出す。
「そろそろログが溜まる頃でしょう?」
「あぁ。...一緒に来ないか?」
「私はこの店の経営者よ。この仕事が好きなの。いい話も悪い話も舞い込む。それが面白いのよ。」
「それ以上に面白くさせてやるよ。」
酒を作る手が止まった。どこまでもストレートで自信満々な口説き文句。こう毎日のようにいい男に言われば、いくら気丈な名前でも気持ちが揺らいでしまう。
まっすぐ見つめてくる瞳から、目をそらすことができなかった。
「明日俺は経つ。」
ズキっと心が痛んだ。
まさか私は、この男のことを...。絶対に無い。そう絶対に。
そんなことはあってはならない。
*
「じゃあ、私は帰りますよ。戸締りお願いします。」
「...はぁ、い。」
「飲みすぎですよ!ほどほどにして下さいね!!」
「わかってるわよ!早く帰りなひゃいっ!!!」
(...大丈夫かな。本当に。)
ボーイに忠告を受けたのにも関わらす、客のいなくなった暗くなった店のカウンターで、名前はひたすら酒を飲み続けた。湯水のように流し込んでいく。空いたビンがカウンターの上に広がった。
時計を見ると2時を過ぎている。明日も店があるのだ。このままここで寝るわけにはいかないと、かろうじて残った意識が名前を動かす。
「戸締り...しなきゃ...。」
今にも寝てしまいそうなほどに、瞼は重い。だが、こんな醜態を従業員たちに見せるわけにはいかない。男のことでヤケ酒をした自分がいると知られれば、いい笑いものだ。窓が閉まっているかの確認も行い、店の中を見渡す。
目が霞むなか、あの男が座っていたソファに人影が見えた。
「...酔ひすぎたみひゃい、ね。」
呂律すら回っていない自分が可笑しい。頭のネジも今にも飛びそうだ。でも、少しくらいなら大丈夫か。
もう従業員はいない。
人影の見えるソファへ足を運ぶ。視界がぐるぐると回って、何度もよろけそうになった。やっとの思いで着いた、その場所で名前は大きく目を見開いた。
「...ローっ。」
目を瞑って、寝息をたてている男。そこにいつもの獣のような姿は無かった。長いまつ毛に、すっと筋の通った鼻。整った顔立ちに名前の心は弾む。
そっと手を伸ばしたが、ローは起きない。名前の中の何かが弾け飛んだ。
「貴方が悪いのよ。」
寝息をたてるローに跨り、頭に手を回す。そして溢れる欲望のままキスをした。
「...酒臭ェ。」
パチと見開かれた目。もう後には戻れない。自信満々な男の余裕の無くなった姿が見てみたい。名前のあそこが疼いた。
「どれだけ飲んだ?」
「関係無いわ。愉しみましょう?」
ズレたドレスの肩ひもに、今にも見えそうな胸。そしてドレスの裾からのぞく太もも。どこを見ても妖しく誘いこんでくる。
ローは息を飲んだ。