<変哲もない>
今日が終わりを迎えれば、当たり前のように明日が来る。そうして1年、また1年と月日は過ぎ行く。
< 星降る夜に >
「ね、ロー。もうすぐ1年の終わりの日だよね。せっかく大きな島にいるんだもん。眠らない街があるんでしょう?その日は、どこか一緒に行こうよ。」
「必要ない。」
「どうして?特別な日じゃない!私は素敵な過ごし方をしたいっ!!」
ローは手に持った本から目を離そうとしない。愛想のない返事に苛立った私は、思わず声を荒あげた。
「その日が特別な日だと決めたのは、名前だろう?俺には、ただの1日にしか過ぎない。いつものように過ごす。」
「1年の終わりの日は、特別な日に決まってるじゃない!!」
「俺たちは海賊だ。命をかけて毎日を生きてる。特別も何も無い。」
「もう、わかんないよっ!!」
怒りに任せて部屋を飛び出した。そして1人、眠らない街へと向かう。
ただ私は、1年の節目の日に、ローとの思い出を作りたかっただけなのに。
そうすれば、この1年がとても幸せだったと思えるような気がしたから。
変哲もない日常。
それで1年を終わらせたくなかった。
「どうしよう...。」
あれだけロー相手に啖呵を切ったんだ。船に戻るわけには行かない。
当てもなく1人、街を彷徨う。
(シャンクスだったらいつも...。)
あーもう、ダメダメっ!シャンクスはシャンクス。ローはロー。
ふと、本を読んでいたローの姿が浮かび上がる。
(そうだ、私も。)
自分の力について知ってから、本から遠ざかっていた。久しぶりに読書するのも悪くない、と吸い寄せられるかのように図書館へと向かう。
いろんなジャンルの中、恋の棚というところで目が止まった。そこで手にした1冊の本。
星降る夜に
なぜ、たくさんある本の中からこれを選んだのか分からない。だが、どうしてもこの本が読みたくなった。
中身も確認せずに、空いてる席に座ると、表紙を開けた。
するとそこには、真っ白なページに黒い手書きのような文字で
“物語の主人公はあなた。一週間後の流星群と共に消えゆく。”
と書かれていた。
主人公はあなたとは、読み手が自分だからか?そんな風に考えながら、次のページをめくる。
「あれ、真っ白...。」
いくらページをめくっても真っ白な紙が続く。疑問を抱いた直後、激しい目眩が襲う。名前は意識を手離した。
*
「ん...ぅっ。」
目を開けると、真っ白な銀世界にいた。不思議と寒さは感じない。
少し離れたところに人影が見える。まずは自分の居場所を確認しなければ。
「あの、すみません。ここはどこで...っロー!?」
「なんだ、この女。」
「え?名前よ、分からないの?」
「そんな女知らねぇ。」
意味が分からない。私の目の前にいるのはローそのものだ。でも、私を知らないという。嘘をついているようにも見えない。
まさか、ここは物語の世界?そんな非現実的なことは考えたくない。
だが、ふと頭をよぎる。
“物語の主人公はあなた。一週間後の流星群と共に消えゆく。”
「女、どうして俺の名前を知っている?」
「...手配書で見たことがあるから。」
「そうか。」
どうやら海賊をしていることに変わりは無いらしい。このままこちらの世界のローについて行くか...?
元の世界に戻れる糸口も、見つかるかもしれない。
「私を船に乗せて。」
「ああ?どうして女を船に乗せなきゃならねぇんだ。」
「私も戦える、損はさせない。」
「...まぁ、悪くない女だ。別の目的で乗せるのも、選択肢としてはあるな。着いてこい。」
そうして私は、ハート海賊団の一員となった。
出発は一週間後らしい。その理由は一週間後に流星群が降ってくるから。星の欠片が、この島に突き刺さるそうだ。それを採取するのが目的だと、ローは言った。
ますます異次元に来た、という仮説が濃厚になる。一週間後、私は消える。元の世界に戻るということか?