<用意しておけ>

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朝起きると、いつもなら隣にいるローがいなかった。まだ毛布もあったかく、彼の残り香がする。

(私、抱かれたんだ...。)

頭の中に浮かぶ眠る前の行為。初めて男を受け入れた感覚。そして、まだ残っている痛みが、よりリアルに思いださせる。

シャンクスがこのことを知ったら
どう思うだろう?

(きっと怒るだろうなぁ...。)

あれだけ過保護な彼のことだ。そう思うと一方通行の愛しか、存在しないであろう行為をしたなんて言えるはずもないと名前は思った。

そろそろ起きなければ、と名前は身体を起こそうしたが、腹部に鈍い痛みが走った。疲れの溜まった身体も、睡眠を欲している。名前はもう一度、柔らかい毛布へと身を委ねた。




「......きろ。」

「......起きろ。」

ん、誰かが呼んでる?起きなくちゃ。

「ちっ、まだ起きねェのか。」

(ん.......!!)

突然唇に感じる重み、微かな隙間から入り込む舌。無理に絡めとってくるその動きに息苦しさを覚え、止まっていた思考が動きだす。
目の前にはすぐローの顔。

「んん....!?」

その声に反応したように、ローがそっと目を開ける。

(ああ、またいつもの目だ...。)

見つめあったままのキス。もう一度目を閉じると、再び身体を委ねてしまいそうで、名前は対抗の意味を含めて、目を閉じることをしなかった。

「......ッ、ハァハァ。」

「ククッ、いい加減なれろ。」

そう言ってローは名前の頭に手を置き、髪をクシャクシャっとした。
こんな風にされると何も言えなくて、ただ頬を赤らめることしかできない。

「ボサっとするな。この辺りから海軍が増える。」

「どういうこと?」

「気付いて無かったのか。今いるのはマリンフォードの近くだ。」

「え!?だってローは...。」

「行かないとは言っていない。」

それもそうだ。この返事はいかにもローらしい。

「用意しておけ。」





用意と言われても、何をすべきなのか分からなかった。
戦闘することもあるかもしれないが、戦えることを隠しているから武器の用意ではないはずだ。
心の準備か?と思いつつ、名前は着替えの服へと手を伸ばした。

部屋の外へ出ると、船員たちが慌ただしく動いている。そこにちょうどシャチが通りかかった。

「お、おはよ。名前ちゃん。」

「おはよー、何してるの?」

「明日の準備。何があってもいいように。」

いつもはおちゃらけたキャラのシャチも、この時ばかりは真剣な顔付きだ。やはり彼も海賊、海の男なのだろう。
海に出れば、死は常に隣り合わせ。そのことを教えてくれていた。
名前の緊張がさらに高まる。

「うぉぉぉー...!!」

名前が尊敬した眼差しでシャチを見ていると、遠くからベポの声が聞こえてきた。
唸り声と足音。
落ち着きのないそれは両手に食料を抱え、けたたましく目の前を通りすぎて行く。

...が。シャチの運んだ荷物に、足元がひっかかり盛大に転倒する。あたりに散乱する食料と荷物。
これをローが見ていたら、怒りを通り越して呆れるのではないか。そう思うと可笑しくて、名前は軽く笑った。

「ベポ、なんで食料なんか...。」

「なんかじゃないよ!一番大切だよ!」

その言葉の力の入れ具合に、名前はまた吹き出す。

「ベポ...可愛いね。」

肩が軽い。先ほどまでの緊張がベポのおかげで一気にほぐれた、そんな気がした。

「...何が可愛いんだ?」

ああ、またローだ。
いつも雰囲気を壊すように、タイミング良く現れる。

「なんだ、これは...。」

「「あー...」」

その場にいた3人は頭をかきながら、ローの表情を伺っている。
ローは仕方ないといった風にため息をつくと、荷物のほうを指差した。

「準備のほうはどうなってる。」

「もうほぼ終わりっスよ!これさえ片付ければ...。」

シャチが目をやるほうには、ベポが散らかした物が散乱している。すいませんと平謝りのベポにシャチと名前が、笑い混じりに溜息をついた。

「船長!こっちもできましたよー。」

反対側からは誇らしげに手を振りながら、ペンギンが歩いてきていた。
そして、目の前に散らばる物を見て何やってるんだ!と大慌て。

「だって、こいつがさー。」

「いいから!片付けるぞ。」

「...すいません。」

場の空気が柔らかかった。ローの表情もどこか丸くトゲが無い。この空間を失いたくない、その思いが名前の中で強くなった。

「戦いには参加するの...?」

「場合によってはな。」

俯いた名前の手にきゅっと力が入る。何かを考えているのか、音のない空間がその場に広がった。

「不安か...?」

名前はローから発せられたその優しい声に、顔をあげた。ローは不安で仕方ないといった顔をする、名前の頬に手を回す。

「安心しろ。お前ら船員の命くらい俺が護ってやる。」

「ロー。」
「船長...。」「キャプテン!」

その場にいた全員がローのほうを見た。彼の目は嘘をついている様な目ではない。その強い眼差しに心を奪われる。
こういうところに、カリスマ性があるというのだろうか。人を惹きつける魅力を感じる。

「準備ができたら身体を休めておけ。俺はやることがある。」

そう言ってローは、部屋のほうへと向かって行く。
あまり多くは語らないが、彼の言葉は確実に船員たちの心に響いていた。






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