<伝説の男>

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「う...ん...。」

ガヤガヤと何か周りが騒がしい。重たい瞼を開けようとするが、ズキズキと鈍い頭痛を感じて名前はまた目を閉じた。自然と頭のほうへ手を寄せる。

ジャラ......ッ

「え?」

腕に少しの重みを感じて目をやると、冷たい鉄の手錠がされていた。自分の手元にあったはずの刀や、荷物も無かった。

「.......どういうこと?」

当たりを見回すと同じように手錠をされた男や、女たち。自分も含め何人いるのか不明だったが、檻の中に閉じ込められているようだ。
状況がうまく理解はできず、眠る前の記憶を必至に辿る。

「えっと確か...。」

私は待つ間、やけになってお酒を飲んでた...。眠たくなってきて、確か後ろから誰かが...。

「ダメ、思い出せない。」

「おい!起きたか?」

ふと隣の男から声を掛けられた。がたいの良い力強そうな男だ。

「ここは?」

「ここはシャボンディ諸島。オークション会場の控室さ。」

「どういうこと?」

「お前は人攫いに合ったんだ。俺たちはこれから買われるのさ。」

そう言って男はクククッと、不気味な笑みを浮かべる。

「なぜ笑っているの?」

「逃げれねぇからさ。未来を受け入れるしかねぇ。俺は奴隷になるんだろうな...。」

「奴隷...。」 

「見たところ、かなりの上玉だからお前は貴族達の観賞用か...。海賊の玩具か...ククク...ッ。」

もしこの男の言うことが本当ならば、これから私は商品になるってこと?早く逃げなければ、と心が焦る。

「刀......っ!!」

無意識に手を腰辺りに回そうとしたが、途中で刀がないことを思い出し、その手を止めた。

「大切な刀なのに...。」

もう売られてしまったのだろうか。それともあの店に置き去りのまま...。

「どうしよう。」

周りに武器らしきものもなく、逃げ出す術も思い当らなかった。きっとシャンクス達が私が、船に帰ってこないことに気付いて探してくれる。それを祈るしかなかった。

「はァーー....。」

途方に暮れた名前はもう一度、捕えられた男や女たちを見た。先程は気付かなかったが、名前は巨人族らしい男の後ろに、一人の老人を見つけた。

(あんな老人まで...。)

肩にかかるくらいの白髪の眼鏡をかけた老人。白いマントのような物を着ておりはっきりとは分からないが、老人らしい身体付きでは無い。なぜだかわからないが、どこか懐かしい雰囲気も漂う。

(あの人、どこかで...。)

名前はおもむろに立ち上がると、その老人の傍まで歩いていった。距離が近づくたびに、少しづつ記憶が蘇る。そんな感じがした。
老人の目の前にたどり着いたその時、見覚えのある顔が目に映った。

「レイリ―っ!!!!」

名前は思わず声をあげた。

「ん?私を知っているのか?」

「私です。名前...シャンクスの船に乗っていた...。」

「ふむふむ。」

自身のヒゲを擦りながら、レイリーは少し考えたあと、思い出したのか手をポンっと叩いた。

「おお!!名前か。久しぶりだ。綺麗になった!誰か分からなかったよ。何しとる、こんなところで!?あいつはどうした?」

「それが......。」

名前とレイリーは、古くからの顔馴染みだ。シャンクスの船に乗ってしばらくした頃だった。
大切な人に会わせたいと、シャンクスに連れられてある島に行ったことがあった。そこで会ったのが、目の前にいるレイリーだ。名前の事情も全て知っている。

あれから会うことはなかったが、こんなところで出会うとは。名前もレイリ―もまさか、とびっくりしたが再会を喜んだ。

「ふむ。まだ手掛かりも掴めないのか。」

「うん...レイリーは何か知ってる?」

「......ああ、知っている。」

「えっ!?」

ドキッと胸が鳴る。名前は自分の拍動が強くなるのを感じた。喉を小さな塊が音を立てて流れ落ちた。

「レイリーは何を...。」

ドッカァァァ――――ンっっ!!!!

その時、とてつもなく大きな音が辺りに響き渡った。

「な、なにっ!?」

上手く状況は飲み込めないが、会場らしい方向から悲鳴が聞こえる。

「何かあったようだな...さてと。」

そう言って彼が立ち上がった瞬間、控室にいた黒服の男たちが、ドサドサと音を立てて倒れていく。名前にはそれが、レイリ―の覇気によるものだとすぐに分かった。

ガシャン――ッ。

ふと、音がしたレイリーのほうを見ると先程までしていた彼の手錠が、冷たい床に落ちていた。

「レ、レイリ―?」







宴が終了する頃。名前がいないことには気付いていたが朝には戻ってくるだろうと、シャンクスや船員達は探すこともしなかった。

しかし、名前は朝になっても昼、夕方といくら待っても帰ってくることはなかった。さすがのシャンクスも船員達も焦りだす。

「帰ってきたか!?」

「いや、見てねぇ。」

「こっちもだ。」

船と島にはたくさんの赤髪海賊団の船員達が走りまわり、必至に名前を探していた。

「どうしよう!名前がいなくなっちまった。」

頭を抱えながら焦っているそれは、海を総べる四皇とは思えない姿だった。ウロウロと船長室を歩き回るシャンクスを、幹部たちが宥める。

「落ち着け、お頭。いま必至に皆が探してる!」

「きっと見つかる。」

「そんなこと言ってもな、あい....「お頭―――――っ!!!!!」」

遠くから一人の船員が叫びながら、シャンクスのほうへ走ってくる。その手には名前の荷物と、刀が握られていた。

「「「それは...っ!」」」

走ってきた男はハァハァと息を切らし、今にも倒れそうなほどだ。

「お、っハァ...かし、ら...っ、ハアハア。」

途切れ途切れになりながらも、男は必至に話を始めようとした。そこにベンベックマンが止めに入る。

「話を聞きたいが、まずは息を整えろ。それから話すんだ。」

「ハァ...はっ、はいっ!!」

「誰か水を持ってきてやれ。」

すぐさま別の男が水を取りに行き、戻ってくると走ってきた男に手渡す。その男は水を一気に飲み干すと、息を整え話はじめた。

「街の酒屋でこれが...っ!見ていた奴らの話によると、名前は酔っぱらって寝てたらしくて。」

「....酔って?」

シャンクスが不思議そうに顔を傾ける。
それもそのはずだ。名前が酔うまで飲むところを見たこともなかったし、以前からそんな風に飲みたくないと聞いていたからだ。

「お頭.........。」

「続けるんだ。」

「それで!っ、寝ている名前を数人の男が取り囲んで何か話をしたあとに、どこかへ連れてっちまったらしい!」

「「「....何っ!?!?」」」

それを聞いたシャンクスは顔つきが一気に変わり、体中から覇気が溢れだしたためか、下っ端の者たちは次々と倒れだした。
走ってきた男は下っ端ではなかったが、すぐ傍で覇王色の覇気に当てられると一溜りもなかった。口から泡を吐いて倒れた。

「お頭、やめろ!」

「話がまだ途中だっ!!」

「あァ?」

幹部たちが止めに入るが、シャンクスの怒りは止められない。何をしでかすか、分からない。そんな雰囲気さえ船上には漂っていた。
いつもは温厚な船長とは裏腹な姿に、なんとか正気を保っている船員達は、恐怖さえ覚えた。





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