<男はいつも勝手>
「私にも大切な人がいたの。」
「そうなんですか?」
「幼馴染でね...。」
元はある島有数の富豪の娘で、幼馴染とは仲もよく将来を約束された仲でもあった。二人が年頃になってきた頃、その辛い出来事は起きた。
「私はあの日、目が覚めたら船の上だった。びっくりしてすぐに周りを見渡したわ。
次の瞬間、自分の目を疑った。島が、私の島が...、赤い炎で包まれていたの。」
泣き叫び今にも海へ飛び込もうとした彼女を、その船の船員たちが必死に止めてくれたらしい。
それからはもう地獄。記憶らしい記憶もない。帰る場所も行くあても無く、ただ、がむしゃらに生きて気付いたらこの島に辿り着いていた。今にも倒れそうな自分をここのオーナーが雇ってくれて、今があるんだ。
彼女が話した内容を短くまとめると、そんな感じだった。
「後で知ったんだけどね...。」
あの炎は島で海賊が起こした事件のものだったらしい。家族の行方は不明。
「幼馴染さんはどうなったの?」
「彼は生きているわ...。」
しかし、女性の顔は暗く沈んでいた。その訳を聞こうか悩んでいると、彼女が口を開いた。
「その事件の首謀者が彼。」
予想だにもしなかったその話に、名前は目を丸くする。そんな名前を余所に彼女は話を続けた。
「彼はいま海賊をしてる。」
「え?」
「貴女もきっと知ってるはずよ。」
「それは、だ....「「おーーい!!」」
そっちの姉ちゃんも来てくれ!と、シャンクスの声が響いた。名前が後ろを振り返ると、やっと気付いたのか、シャンクスが手を振ってきた。
「なんだァ!名前いたのか!」
「...シャンクス。」
「こっちへこいよ!!」
嬉しそうに手招きする行動が余計に苛立たせたのか、名前はぷいっと顔をそむけた。
「んー?どうしたんだ、あいつ。」
「気にすることないわ。もっと楽しい話を聞かせて?」
「いいじゃない。ねぇ、続き...。」
シャンクスは名前が何か怒っていることは感じとったものの、周りの女たちに流されるまま先ほどの話の続きをし始めた。
のちに彼はこの時、名前の側にいかなかったことをとても後悔する。
「........バカ。」
いつもならこんな時シャンクスは、どうした?と聞きにきてくれるはずだった。しかし、今日は違う。遠くで嬉しそうに話すシャンクスの声が聞こえるだけで、名前の心はズキズキと痛んだ。
「ごめんね。呼ばれたから行かなきゃ。」
落ち込む名前を見て、先ほどまで話していた女性が申し訳なさそうに言った。
「大丈夫です!こちらこそ、引き止めちゃってごめんなさい。」
「いいのよ。重い話を聞かせてしまったね。」
「いいんです。私もたくさん話を聞いてもらったから...。」
お互い様ね、と彼女はメモとペンを取ると何かを書き始めた。俯く顔もまつ毛が際立ち、とても美しくこんな女性になりたいと、名前は思った。
(こんなに綺麗な女性を置いていってしまう男って一体...。)
そんな風に考えていると、その女性ははい、とメモを差し出した。住所と店の名前が書いてあるようだ。
「話の続きが気になるでしょ?」
「.....はい。」
「この店に私の親友がいるわ。その子から教えてもらって?」
「いいんですか?」
その女性は名前の耳元に手を当てると、今はここにいたくないでしょ?とそっと小さな声で言った。
「親友の名はベルよ。そのメモを見せればいいわ。」
彼女が指を指したメモにもう一度、目を通すと下のほうにユリアナと書いていた。
「...ユリアナ?」
「私の名前よ。」
にこっと笑った顔がとても可愛かった。
「貴女の名前は?」
「名前です。」
「覚えておくわ。もし海で彼に会ったら無理をしないで、とだけ伝えて。あと、何度も言うようだけど...。貴女は十分可愛いんだから、自分に自信を持つのよ!」
そう言って彼女は男たちの元へ向かった。とても優しく、最後まで笑顔の素敵な女性だった。手渡されたメモを持つ手に、自然と力が入った。
シャンクスのほうを見るが、相変わらずデレデレと楽しんでいる。
(やっぱり行くしかないよね!)
名前はこの店を後にすることにした。
メモを頼りに街を歩き、ようやくそれらしき店を見つける。そっとドアを開けると、こちらもがやがやと賑やかに、お酒の時間を楽しんでいるようだった。カウンターのほうへ行き、亭主と思われる男に声をかけた。
「この店にベルって女の人いる?」
「いるぜ?どうした。」
「ユリアナさんからの...。」
「ああ。けど悪いが今、ベルは上客の相手をしているんだ。少しここで待ってな。」
「分かったわ。じゃあ、何かお酒を頂戴。」
最初は一口、また一口とゆっくり飲んでいた。しかし、いくら待ってもベルは来ずシャンクスへの苛立ちもあったため、口へ運ぶ回数が少しづつ増えていった。
名前は普段はそこまで飲まないが、この日だけは特別だった。
「あー美味しい!!」
「お嬢さん!そんなに飲んで大丈夫か?」
「だいじょーぶ!次、次。」
亭主が出すお酒を、次から次へと飲み干していく。周りが目を奪われるような、そんな早さだった。
「もぉーっとぉ!ねー...早くぅ。」
しかし、そんなペースが続く訳もな名前は少しづつ呂律が回らなくなってきていた。瞳も心無しか力が入っていない。
「ちょっと、飲みすぎじゃ...。」
「らいじょーぶ。」
「ベルに会いに来たんだろう?」
さすがの亭主も止めに入るが、名前は聞こうとしない。周りの目を気にせず飲み続ける。
(結局大人が好きなんでしょ!)
「どーせ私は子供よ!」
手にもつグラスをドンっとカウンターに下ろすと、お酒がまわってきたのか力を抜き、カウンターに体を預けるようになった。視界がどんどん狭くなるのを、名前は感じていた。
そんな名前の後ろに数人の男達が忍び寄る。