<22歳の誕生日>
新世界に入る前の少し大きな島。
そこにある街の港にシャンクスの船、レッドフォース号が停泊していた。
今日は名前の22歳の誕生日だ。
この2年、言葉では表せないほどとてもいろいろなことがあった。ローと言う男に出会い、いろんな経験した日々。
シャンクスが迎えに来たあの日。
この船に戻って来てからは自身を強くするべく、名前はローへの恋心を一度封印し、シャンクスの気持ちも断った。
それが正しかったのかは分からない。だが、名前は自分なりに自身を見つめ直せたようだった。
22歳を迎える今日、華奢な背中が少しだけ大きくなった。
*
「お前ら準備しろ!!」
「今日は一日お祝いだからな!」
いつも以上に活気に溢れた船は街にまで、その賑わいが届きそうな勢いだった。
(みんな、ありがとう。)
名前は皆が自分のために、宴の準備をしてくれているのを微笑みながら見ていた。
「お!ここにいたのか、名前。」
そこへシャンクスがやって来る。手をあげてヒラヒラと振られた手に、名前は手を振りかえす。
「今日はお前が主役なんだから、思いっきり我儘言っていいからな!」
「シャンクス。痛いよ。」
ポンっと力強く名前の肩に置かれたシャンクスの手の上に、名前がそっと手を添える。
「ありがとう。でもね?」
言葉と言葉の間の小さな間。それがどこかもどかしい。シャンクスは名前を急かすように「なんだ?」と聞いた。
名前の手にきゅっと力が入る。
「私はいつも我儘言わせて貰ってる。それに家族にこうして毎年、誕生日を祝ってもらえるだけでいい。シャンクス達は私を蔑むことなく、本当に大事にしてくれるんだもん。それだけで幸せなの。」
それを聞いたシャンクスの目頭が、ちょっとだけ熱くなった。名前の腕を引いて、自分の腕の中に閉じ込める。
名前の心は、どこまで透き通っているのだろう?
目の前に広がる海のように綺麗で底が見えないほど、深い。
「名前は幸せになる権利があるんだ。もっともっと我儘言っていいんだぞ?全部俺が叶えてやるから。」
名前
お前の幸せが俺の幸せ。
*
(なんか今日のシャンクス、変...。)
名前はそんな疑問を抱いていた。だが、他の船員達に聞いてもいつもと変わらないと言われるだけだ。
気のせいか?と何度も思ったが、やはり何か引っかかる。
今日の彼の笑顔は、どこか硬い。そして寂しそうだった。
「ね、ベン。ちょっといい?」
どうしても納得できない名前は、シャンクスの右腕ベックマンを捕まえる。
彼はシャンクスのことを、本当によく分かっている。
きっと何か知っているはずだ。
「誕生日、おめでとう。なにか聞きたいことでもあるのか?」
「ありがとう、さすがベン!あのね?今日のシャンクス...。何か変じゃない?」
「何が変なんだ?」
「分からないけど...。寂しそうにしている気がする。」
うつむく名前の頭を、ベックマンはそっと撫でた。
シャンクスとは違う、もう一人の家族の温かい手。
「ハハッ、気のせいだ。お頭はいつも通りだぜ?」
「本当に?」
「あァ、そーだ。それよりも名前!お前はヤソップやルゥたちと街でも行ってこい。夕方には準備を終えておくから。」
「...分かった。じゃあ、みんなと行ってくる。」
ベンが言うんだから間違いない。名前はずっと感じていた違和感を押し殺して、ベンの元を離れた。
そこへちょうど二人がやってくる。
「あーいたいた。ベックマンから話は聞いたか?ほら、名前行くぞ。」
「ヤソップ、ルゥ!!」
「なんかいいもんあったら俺が買ってやるよ。」
「えー、本当に?」
ベックマンはそんな風に話しながら彼らと共に街へ向かう名前の後ろ姿を、じっと見つめた。
なんとも言えない感情が残る。
「お頭、本当にいいのか?」
3人が立ち去ったあと、ベックマンは柱に身を隠したシャンクスにそっと声をかける。
黒いマントが風に揺れた。
二人の声は落ち着いていて、賑やかな甲板とは正反対の雰囲気が漂う。
あえて言うのなら、切ない。その言葉がこの空間には、よく似合う。
「あァ、いいんだ。」
「...そうか。」
(それにしては、あんたのその表情は...。)