<約束>
ここはグランドライン。天候が読めない海だ。嵐は突然やってくる。
そう、突然に。
*
名前の誕生祝いの宴の準備ができたのは、ちょうど夕日が地平線に沈む頃だった。
「あとは名前が船に帰ってくるだけだな。」
シャンクスは沈みゆく夕日をずっと眺めていた。
今日はシャンクスにとってとても特別な日だった。二年前のあの日から。
(名前......。)
その時だった。
海中から泡がブクブクと浮かんでくる。その気泡は次第に数を増し、だんだんと大きくなる。黒い大きな魚の様な影が浮かぶと、ザパ――――ッ!っと大きな水しぶきと共に、潜水艇が現れた。
黄色い派手な船体に、歯車をイメージしたかのようなドクロマーク。
それを見たシャンクスは自身の腰にある刀に手をかける。そして、ニヤリと笑った。
「...来たか、ロー。」
そして扉は静かに開く。
コツコツ――――
靴の音を響かせながら、一人の男が姿を現す。
長い刀を持ち、黒いコートに身を包んだ男。
シャンクスを見つめる目は鋭く挑戦的だった。それは今にも狙った獲物を仕留めようとしている、肉食動物にとても近いのかもしれない。
彼の口角が上に上がる。
「約束を果たさせて貰う。」
「少しばかり名をあげたとは言え、俺に勝てるとでも?。」
シャンクスはそう言いながら、自分に牙をむく猛獣にあの時と同じように覇気を向ける。
「ほう、少しは成長したようだな。」
「いつまでもガキ扱いするな。あの時の俺と、今の俺は違う。」
ローは静かに刀を抜いた。
*
一方、その頃。
「あー、重ェ!!」
「ほら、早くー。」
「ったく、買いすぎなんだよ。」
「だって二人と街で買い物なんて久しぶりなんだもん。張り切っちゃった!!」
名前はヤソップ、ルゥと共に街から船への道を歩いていた。ヤソップの両手には大量の袋。
「お前も肉ばっか食べてないで、これ持つの手伝えよ。」
ヤソップが横目でルゥを見るが、ルゥは俺には関係無い、といったような雰囲気で片手に持った骨付き肉をかじる。
「っち!」
ヤソップは小さな舌打ちをしたが、荷物を押し付けようとはしない。
そこが彼のいいところだ。
「あー、楽しかった!!」
名前が大きな声を出しながら、両手を空に向かって大きく伸ばす。その笑顔に二人が見惚れたのは、言うまでも無い。
しばらくそのまま歩き、あともう少しで船が見えるとなった時、名前がその場にいきなり立ち止った。
びっくりした二人が名前に問いかける。
「いきなり止まってどうした?」
「忘れものか?」
「ううん、違うの。今、何か凄い音がしなかった?」
「いや、何も聞こえなかったぜ。」
「俺もだ。気のせいじゃないか?」
二人はそう言ったが、名前は信じることができなかった。何かが起こっている。
根拠など何もないが、第六感が名前の身体を動かす。
「ごめん、先に行く!!」
「「えっ、あ、おい...っ!」」
(なんだろう?この感じ...。)
よく分からないけど、胸騒ぎがする。現に今日はシャンクスもベンもどこかおかしい。
二人はきっと何かを隠している。とても大切な何かを。
*
「ぅぐ....っ!!っハァハァ。」
「威勢がいいのは口だけか?」
船から少し離れた砂浜。シャンクスとローの間を、目にも止まらぬ斬撃が飛び交う。
覇気と覇気のぶつかり合い。
その衝撃はすさまじく、辺りの空気は張りつめている。普通の人間なら、その空間に足を踏み入れただけで気を失うだろう。
“ROOM”
二人を包むサークル。そしてローは刀を振り回す。
いくつもの斬撃がシャンクスめがけ放たれるが、彼のたった一振りで全て軌道がそれた。その斬撃はそのまま一直線に砂浜の奥に広がる森へと飛んでいく。
ドォ――――ン!
何本もの木が倒れていく音が響き、たくさんの鳥だちが空へと羽ばたいた。
数十メートル、いや何キロと言ったほうがいいだろうか。そこに森があったなど言われなくては想像できないくらい、遠くまで見渡すことができた。
地面には木の根だけが、数え切れないほど無残に残っている。
「派手な能力だな...。」
「そうか?俺は気に入っている。」
ローが指を動かす。
シャンクスの足元から、いくつも棘のように飛び出す砂の山。それに合わせて、後ろから飛んでくる先程切れてしまった木々。
「自然は大切にしろよ。」
「なら、シャンクス。お前が避けなきゃいい話だ。」
「馬鹿なことを言うな。」
それらをもろともせずに避け、シャンクスは刃先を振り下ろす。
キン―――――ッ!
二人の顔の前で重なり合う刃。
お互いどちらも譲らない。ガチガチと均衡を保ちつつ揺れる刃に、夕日が反射して怪しく光っている。
「成長したことは認めてやるよ。だが、お前はまだガキだ。」
シャンクスがニヤリと笑う。次の瞬間、ローの身体にかかる重圧がより重くなった。
(っ、本当に片腕なのか...!?)
「ガキ、ガキうるせェ...グァッ!!」
小さな声と共にローの身体が宙を舞った。