<約束>

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ここはグランドライン。天候が読めない海だ。嵐は突然やってくる。

そう、突然に。





名前の誕生祝いの宴の準備ができたのは、ちょうど夕日が地平線に沈む頃だった。

「あとは名前が船に帰ってくるだけだな。」

シャンクスは沈みゆく夕日をずっと眺めていた。
今日はシャンクスにとってとても特別な日だった。二年前のあの日から。

(名前......。)

その時だった。
海中から泡がブクブクと浮かんでくる。その気泡は次第に数を増し、だんだんと大きくなる。黒い大きな魚の様な影が浮かぶと、ザパ――――ッ!っと大きな水しぶきと共に、潜水艇が現れた。

黄色い派手な船体に、歯車をイメージしたかのようなドクロマーク。

それを見たシャンクスは自身の腰にある刀に手をかける。そして、ニヤリと笑った。

「...来たか、ロー。」

そして扉は静かに開く。

コツコツ――――

靴の音を響かせながら、一人の男が姿を現す。
長い刀を持ち、黒いコートに身を包んだ男。

シャンクスを見つめる目は鋭く挑戦的だった。それは今にも狙った獲物を仕留めようとしている、肉食動物にとても近いのかもしれない。
彼の口角が上に上がる。

「約束を果たさせて貰う。」

「少しばかり名をあげたとは言え、俺に勝てるとでも?。」

シャンクスはそう言いながら、自分に牙をむく猛獣にあの時と同じように覇気を向ける。

「ほう、少しは成長したようだな。」

「いつまでもガキ扱いするな。あの時の俺と、今の俺は違う。」

ローは静かに刀を抜いた。





一方、その頃。

「あー、重ェ!!」

「ほら、早くー。」

「ったく、買いすぎなんだよ。」

「だって二人と街で買い物なんて久しぶりなんだもん。張り切っちゃった!!」

名前はヤソップ、ルゥと共に街から船への道を歩いていた。ヤソップの両手には大量の袋。

「お前も肉ばっか食べてないで、これ持つの手伝えよ。」

ヤソップが横目でルゥを見るが、ルゥは俺には関係無い、といったような雰囲気で片手に持った骨付き肉をかじる。

「っち!」

ヤソップは小さな舌打ちをしたが、荷物を押し付けようとはしない。
そこが彼のいいところだ。

「あー、楽しかった!!」

名前が大きな声を出しながら、両手を空に向かって大きく伸ばす。その笑顔に二人が見惚れたのは、言うまでも無い。

しばらくそのまま歩き、あともう少しで船が見えるとなった時、名前がその場にいきなり立ち止った。
びっくりした二人が名前に問いかける。

「いきなり止まってどうした?」

「忘れものか?」

「ううん、違うの。今、何か凄い音がしなかった?」

「いや、何も聞こえなかったぜ。」

「俺もだ。気のせいじゃないか?」

二人はそう言ったが、名前は信じることができなかった。何かが起こっている。
根拠など何もないが、第六感が名前の身体を動かす。

「ごめん、先に行く!!」

「「えっ、あ、おい...っ!」」

(なんだろう?この感じ...。)

よく分からないけど、胸騒ぎがする。現に今日はシャンクスもベンもどこかおかしい。
二人はきっと何かを隠している。とても大切な何かを。





「ぅぐ....っ!!っハァハァ。」

「威勢がいいのは口だけか?」

船から少し離れた砂浜。シャンクスとローの間を、目にも止まらぬ斬撃が飛び交う。

覇気と覇気のぶつかり合い。
その衝撃はすさまじく、辺りの空気は張りつめている。普通の人間なら、その空間に足を踏み入れただけで気を失うだろう。

“ROOM”

二人を包むサークル。そしてローは刀を振り回す。
いくつもの斬撃がシャンクスめがけ放たれるが、彼のたった一振りで全て軌道がそれた。その斬撃はそのまま一直線に砂浜の奥に広がる森へと飛んでいく。

ドォ――――ン!

何本もの木が倒れていく音が響き、たくさんの鳥だちが空へと羽ばたいた。
数十メートル、いや何キロと言ったほうがいいだろうか。そこに森があったなど言われなくては想像できないくらい、遠くまで見渡すことができた。
地面には木の根だけが、数え切れないほど無残に残っている。

「派手な能力だな...。」

「そうか?俺は気に入っている。」

ローが指を動かす。
シャンクスの足元から、いくつも棘のように飛び出す砂の山。それに合わせて、後ろから飛んでくる先程切れてしまった木々。

「自然は大切にしろよ。」

「なら、シャンクス。お前が避けなきゃいい話だ。」

「馬鹿なことを言うな。」

それらをもろともせずに避け、シャンクスは刃先を振り下ろす。

キン―――――ッ!

二人の顔の前で重なり合う刃。

お互いどちらも譲らない。ガチガチと均衡を保ちつつ揺れる刃に、夕日が反射して怪しく光っている。

「成長したことは認めてやるよ。だが、お前はまだガキだ。」

シャンクスがニヤリと笑う。次の瞬間、ローの身体にかかる重圧がより重くなった。

(っ、本当に片腕なのか...!?)

「ガキ、ガキうるせェ...グァッ!!」

小さな声と共にローの身体が宙を舞った。





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