03

 私が千になってから数日が経つが、相変わらず私にはわからないことが多い。母上にかわって私の身の回りのお世話をしてくれるお手伝いさん(女中と呼ばれていた)にそれとなく聞いたり、噂話をこっそり聞くところによると、私が今いるこの時代はなんと戦国時代真っ只中らしい。さらに、私の父上、毛利弘元は安芸の国の小さな国人領主なのだ。

 ここからは私の推測だが、私は日本の過去に生まれてしまったのではないか、と思う。安芸の国は現代で広島のあたり…毛利の姓を持っていた武将は毛利元就ぐらいしか知らない。毛利元就が中国地方のほとんどを支配するはずだから、まだ彼は生まれてないのだと思う。私は歴史は得意じゃないからほとんど漫画とかゲームとかの知識なんだけど。

「ふぅ……」

 こうしていろいろなことを考えるのはもはや日課となっていて、今日も私は縁側で一人座り込み、考え事をしていた。私はまだ子供なのでやることがほとんどないのだ。娯楽にあふれた現代日本に比べてどれだけ暇なことか。漫画読みたいゲームしたい……。あ、忍冬の花が咲いてる。春が終わるなぁ……

「はぁー……」

「千はここで何をしているのかな?」

「!!?」

 本日二度目の盛大なため息をついたところで、不意に後ろから声をかけられた。おどろいて私は多分5センチくらいとびあがっただろう。振り返ると、私よりも十ぐらい年上の男がニコニコしながら立っていた。

「……だれ?」

 誰なんだろう、この人は。よくよく見てみると、父上に似ているかもしれない。毛利の血を引いているであろうことは予想がつく。鼻筋の通った好男子だ。

「もしかして、兄の顔をわすれてしまったのかな?」

 まだ4つだものね、なんてつぶやきながら私の兄上らしい人は私が座っている横に腰を下ろす。なんだかぼんやりした人だ。

「私はね、興元。毛利興元だよ。千のお兄さん」

「あにうえ?…だいじょうぶ、おぼえた」

 私がそういうと、兄上はまた人のよさそうな笑みを浮かべてうなずいている。私の答えに満足したのか、彼はまた、最初の質問を繰り返した。

「それで、千はここで何をしているのかな?」

首をひねって聞いてくるのが妙に似合う。私は考え事をしてました、なんて言えないので、少し考えた。

「……ここ、あったかいから」

 私は結局うまい言い訳が見つからず、微妙な返答をした。まだ子供として見られているから、この程度の返事で満足してくれるだろう。

「ふーん……じゃあ私もここで少し休憩しよう」

 兄上はそう言って、足を組みなおした。どうやらしばらくここにいるつもりらしい。せっかくなので、話し相手になってもらう。刺激のない生活を送っている私には、兄上の話はとても面白く感た。私は久しぶりに楽しくて、子供らしく笑った。


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