02

 私が日だまりの中で気が付いた日から一週間が過ぎた。はじめのうちは何が起こったのか全く見当もつかなかったけれど、私はだんだん状況を理解してきた。

 ひとつは自分のこと。私は小さくなってしまった訳ではなく、父、毛利弘元と母、祥の方の間に生まれた命、『千』だということ。今は数えで4歳、どちらかといえば母親似の女の子である。

 もう一つはまわりの環境。ここに住んでいる人たちはみんな和服を着て、過去の日本のような生活をしている。今、私がいるお屋敷(現代日本人には信じられない広さだ)も古い日本家屋だ。

 ここまで理解するのに三日間、自分の中でこの事実を受け入れるのに四日間かかったので、その間の私はかなり挙動不審だったと思う。今の私の両親は相当心配したらしく、部屋へ頻繁に私の様子を見に来ていた。父は仕事が忙しいらしいのに、時間を作ってはちょくちょく会いに来てくれる。

 目覚めたばかりで右も左もわからない私にとっては、両親という立場の二人がそばにいてくれる時は唯一安心できる時間だった。私が今頼れる人は、この人たちしかいない。いつもは両親二人がそろうことなんてなかったのだが、今日は珍しく二人がそろって部屋に来てくれたので、私はとても機嫌がいい。二人がいれば、私は落ち着いて現状の整理ができるのだ。

「……千は何か、悩みがあるのか」

「……、え?」

 私がぼんやりと考え事をしている最中に、父が話を切り出してきたので、私は反応が遅れてしまった。そこで祥の方が少し驚いたような顔をした。

「弘元様、千はまだ子供ですから……悩みなど……」

 そこまで言って、私を見つめる。
 確かに、悩みがあるのか、なんてふつう数えで4つ、今でいう3歳の子供に聞くのはおかしい。たぶん、この二人は二人なりに私のことを真剣に考えてくれているのだろう。

(千は愛されているのね……)

 いったい、千歳のいた現代にどれだけの人が自らの子供のことを真剣に考え、愛していたのだろう……?千歳の両親は、私のことを愛してくれていたのかしら?千歳は、その愛にこたえられていたの?様々な疑問が私の中を駆け巡ったが、私は今、千としてこの優しい両親にこれ以上心配をかけてはいけない、という結論に達した。

「ちちうえ、ははうえ、せんはもうだいじょうぶ」

 まだうまく舌が回らない口で言って、私は笑った。本当はまだまだ不安でいっぱいだ。私はうまく笑えたのだろうか?

 父上は、何も言わずに私を膝の上に載せて抱きしめてくれた。私と同じ茶色の髪が柔らかな日の光にあたってキラキラと輝いて見える。私はもう一度、「だいじょうぶ」と、自分に言い聞かせるためつぶやいた。

 今日から私は千として生きる。きっと大丈夫、私には父上と母上がついているのだから。


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