4匹の距離

 シアオの宝物を盗んだズバットとドガースを追うため、洞窟に入った4匹。
 洞窟の中は暗く、そして水がポタポタと上から落ちてくる。そんな中、4匹は進んでいた。

「うぅっ……取り返せるのかなぁ……」

 先程からオロオロし、弱音を吐くシアオ。
 これで何回目の弱音か分からないくらい、洞窟に入った直後から言っている。

「もう引き返せないからな」

 そんなシアオに呆れ顔で、アルがため息をつきながら言う。

「本当に情けないわね。力ずくでも取り返すのよ!」

 フォルテはやる気満々で、シアオが弱音を吐くたび「情けない」だの「意気地無し」だの「ヘタレ」だのと言っていた。
 それにシアオは、反応したりしなかったりだが。ただ「ヘタレ」には敏感に反応した。

「それに……盗られたままで、お前はいいのかよ」

「そりゃいい訳ないけど……」

「それが本音なんだろ? なら弱音吐くのを止めろ。本気で「ヘタレ」って呼ぶぞ」

「もう言いません!!」

 アルに真顔で言われ、慌てて言うシアオ。本当にやりかねないからだ。
 そんなシアオを見てアルとフォルテが笑う。フォルテの笑みはあまり純粋なものではないが。どちらかというと黒い。
 しかし、1匹足りない。その1匹にフォルテが声をかける。

「あのさ……」

「は、はいっ……!?」

 声をかけるとその1匹、スウィートがビクリと体を揺らし反応する。それに怖がっているような感じだ。
 だが、フォルテが言いたいのは何より

「そんなに距離とって物陰に隠れなくても……」

 そう。スウィートは3匹から二メートルくらい離れた場所で、更に物陰に隠れながら来ているのだ。洞窟に入り、フォルテが手を離した瞬間、すぐのことだった。
 どうやら彼女はとてつもない人見知りのようだ。

「ご、ごめんなさい……」

 そう謝っても、声が小さく聞き取りづらい。さらにビクビクとしているスウィート。最後の方は全く聞こえなかった。
 どうしたもんかと頭を悩ませていると、シアオがスタスタと近づいていった。
 スウィートはまたもやビクリとするが、逃げはしなかった。シアオを観察するかの様に見ている。

「名前言ってなかったよね。僕はシアオ・フェデス。敬語は使わなくていいよ。よろしく!」

「えっ……。………………その…………よろ、しく…………?」

 明るく自己紹介してくれたシアオに、おずおずと言うスウィート。
 いきなり自己紹介され、スウィートは戸惑っていた。何を言えばよいのだろうか、と。
 すると他の2匹も近づいてきて

「俺はアルナイル・ムーリフ。ほとんどの奴からはアルって呼ばれてるから、そう呼んでくれ」

「あたしはフォルテ・アウストラ。フツーにフォルテって呼んで」

 と簡単に自己紹介してくれた。
 スウィートはまだ怯えているような表情だ。そしておずおずと

「あ……はい…………。えっと、シアオさん、」

「あ! 呼び捨てにしなきゃ駄目よ!!」

 名前に「さん」付けして呼ぼうとすると、フォルテがズイッとスウィートに詰め寄って強く言った。
 スウィートは少しビクリとしてから、表情に戸惑いを見せた。

「え……でも……」

「いーのっ! あたし達も呼び捨てにするから!」

 反論しようとしたが、すぐにフォルテに遮られてしまった。
 それから少し言い合ったが(ほとんどはフォルテ)、最終的にスウィートが折れた。どうやら押しには弱いようだ。

 そして呼び捨てにするようになったスウィートに、フォルテは満足そうに笑ってから、スウィートの首の部分に目をむけた。

「そういえばスウィートの首にかけてるペンダント……それ、なんの宝石?」

「えっと……これの事……だよね?」

 スウィートは3匹に見えるよう、ペンダントの宝石を前足で持つ。
 宝石は透き通った濃い青色の宝石。キラキラと光っていて、とても綺麗だった。

「多分、サファイヤじゃない、かな……」

 スウィートは宝石、サファイアを見ながら答える。
 サファイアかどうか分からないが、そう思ったらしい。どうやら一般知識は残っているようだ。

(大切なもの、って思うのは……前の記憶なくす前の自分が、そう思ってたからなのかな……)

「確かにな……。本で見たのと同じだ」

 アルがサファイアと思われる宝石を、まじまじと見ながら呟く。
 本で見たというのなら、おそらくサファイヤで間違いないだろう。

 そして少し4匹で談笑していると、シェルダーとカブトがてできた。
 するといきなりタックルで攻撃してくる。それにスウィートは咄嗟に反応した。

「きゃ……!?」

 ギリギリ、スウィートも攻撃を避ける。
 だが避ける以外に、彼女はどうすればいいのか全く分からなかった。というか襲ってきた理由が分からなかった。

「ど、どうしたら……」

「スウィート! 攻撃して!」

 シアオがスウィートに向かって叫ぶ。
 スウィートは危なっかしいが攻撃を全て避けていきながら、シアオの言葉の意味を考えた。

(こ、攻撃って……!? 何をすればいいの!?)

「電気ショック!!」

 横を見ると、アルがシェルダーに電気ショックを喰らわせ倒していた。
 それを見て、スウィートは攻撃の意味が分かった。

(そっか……! 技! えっと〜……)

 イーブイができる技、そして自分もすぐにできそうな技を思い出してみる。
 1つ思い浮かぶと、スウィートはカブトのタックルを避け、すぐに体当たりをした。
 すると一撃でカブトは倒れた。

「あぅ……ビックリしたぁ……」

 ホッと安堵の息をついていると、体の力が抜けていく。いきなりの戦いで体が強張っていたので、どうやら結構な体力を使ったようだ。
 スウィートは3匹に説明を求めた。というか説明してもらわなければ困るのだが。

「ねぇ、さっきの……」

「えっとね、此処は不思議のダンジョンって場所なんだ」

「不思議の……ダンジョン?」

 はじめて聞いた言葉にスウィートは首を傾げる。一体それはなんなのだ、と。
 シアオは頷いて話を進める。

「入るとさっきみたいに、ダンジョンに住んでるポケモンが襲ってくるんだ。
 もしもダンジョン内で倒れると外に出されて、ポケは全部なくなり道具は減ってたり……とか」

(ポケ? ……お金の事かな)

「それともう一度おなじダンジョンに入ても、ダンジョン全体の形が変わってるんだ。理由は分からないけど。
 だから不思議のダンジョンって呼ばれているんだ。分かった?」

「うん。大体は。ありがとう」

 今度から技が出せるようにしないと、と思うスウィート。
 元人間のため、技のだし方など知らない。今更だがようやく四足歩行に慣れてきたのだ。

「まぁバトルセンスはあると思うわ。攻撃は全部避けて、更に一撃で相手を倒したんだから」

 フォルテは思ったままの感想を述べる。
 確かに危なっかしかったが攻撃は全て避け、体当たり一撃で敵を倒したのだ。バトルセンスはあるほうだろう。

 それから敵を倒しながら、もう少し詳しくダンジョンの事を話ながら、どんどん進んで行く。

 そしてしばらく進んでいると、フォルテが思い出したように発言した。

「にしてもあいつら、どこいったのかしら……。絶対ボコッてやるんだから……」

 後半らへんがかなり黒くなってきている。というか黒いオーラがでてきている。
 スウィートは怖がってアルの後ろに隠れ、アルはため息をつき、シアオは顔がひきつらせた。アルは慣れているようだ。

 そしてスウィートが前を見てみると、なにやら紫色の物体が見えた。

「あ、あれ……!」

 スウィートが指した方向には追っていた、紫色の体をした2匹のポケモンが話していた。




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