始まりの出会い

 時間は夕方より少し前。
 3匹のポケモンが、プクリンというポケモンの形をした建物の前に立っていた。ある者から見たら可愛らしいと、ある者から見たら悪趣味だとも思うだろう。
 3匹の前には……穴。その穴の上には落ちないように、鉄の格子があった。

「シアオ……早くしろ」

 と呆れたような口調で言うのはピカチュウ。
 顔は疲れているのか、それとも呆れているのか、それか両方か。とにかくいい表情はしていなかった。

「わ、わかってるよ!」

 シアオと呼ばれたポケモン、リオルは顔だけを後ろに振り返り、ピカチュウに大声をあげて反論する。あまり迫力はないが。
 シアオは顔を前に戻し、再び穴と向かい合った。シアオは小刻みに体が震えている。
 そんなシアオを見て、ピカチュウは小さくため息をついた。もう何も言う気はないらしい。

(今日は宝物持ってきたし……大丈夫!)

 シアオはようやく決意し、恐る恐るといったように格子の上に足をのせる。
 そして格子の上に両足をのせた瞬間

「ポケモン発見! ポケモン発見!」

「ひぃっ!?」

 格子の下から元気な声が聞こえた。声はまだ幼い♂の声だ。
 シアオはビクッと情けない声と共に反応する。そんなシアオを気にせず、声は言葉を続ける。

「誰の足形? 誰の足形? 足形は、」

「やっぱ無理、無理!!」

 思いきり頭を横にブンブンと振って、シアオは凄い速さで格子から飛び退いた。顔は青ざめている。
 格子のほうからは

「見失いました……」

「またか……」

 と言う声が聞こえた。また、ということは、もう何度も来ているのだろう。
 ピカチュウはまたため息をつく。先程よりも大きいものを。そしてシアオに呆れたような目をむけた。

「うぅ……またやっちゃた……」

 そんなピカチュウに気付かず、ガクッと肩を落としてシアオは顔を俯かせる。
 すると次の瞬間、怒鳴りにも近い声があがった。
 
「何してんのよ! こんの馬鹿がッ!!」

 声とともに、シアオの頭を赤い何かが叩き、バシンッという大きく痛そうな音が響く。
 叩かれた張本人、シアオは頭を手で押さえながらうずくまり、そして後ろを向いて睨んだ。

「いったー!! 何するのさ、フォルテ!!」

「黙りなさい! これで何回目だと思ってる訳!? 付き合ってるこっちの身にもなりなさいよ!」

 気が強そうな声。先程シアオの頭を叩いた赤い物は、シアオの後ろにいた、フォルテと呼ばれたロコンの尻尾だろう。
 フォルテは怒りを隠そうともせずに表し、シアオを睨みつけている。シアオはフォルテから目を放すと

「はぁ……今日は宝物持ってきたのになぁ……」

 と懐から何かを取り出した。
 取り出したものは何かの欠片のようで、不思議な模様がある。シアオはそれを見て、ハァ、と溜息をついた。
 すると見かねたピカチュウが

「とりあえず海岸行くか?」

 と提案した。その声でフォルテの睨みも少しは止んだようだ。
 シアオはもう一度ハァ、と溜息をついた。そして俯いたまま、目線だけを2匹に向けながら

「うん……ごめんね。フォルテ、アル」

 と元気のない声で謝罪した。
 謝られた2匹、アルというピカチュウとフォルテは、プクリンの建物とは反対の方向に向かって進んでいく。
 そしてそのまま進みながら

「もう慣れた」

「モタモタしてると置いてくわよ」

 と言ってスタスタと歩いていった。
 置いて行かれる、と思い、シアオは急いで欠片をしまって、2匹を追いかけた。シアオの表情には、少しだけでも元気がでていた。

 3匹が去ったあと、物陰からズバットとドガースが出てくる。
 2匹はシアオ達が行った方向を見ながら、顔に怪しい薄ら笑いをうかべた。

「おい、宝物とか言ってたよな?」

 ズバットがドガースの方を向き、ニヤニヤしながら言う。何か良からぬことを考えているような、そんな表情を。
 するとドガースは肯定を表した。

「ああ。きっと売ると高く売れるに違いない。追いかけようぜ」

 ドガースがそう言うと、ズバットとドガースは顔を見合わせ、3匹の後をこっそりと追いかけた。







――――海岸――――

「うわぁ! やっぱり綺麗だね」

 夕方、海岸に来るとクラブ達が泡吹きをしている。
 泡は海と重なりあいキラキラと光っている。

「ホント……何度見ても綺麗」

 フォルテは先ほどの怒った顔から一変し、美しい風景を笑顔で見ていた。シアオもアルも海を眺める。
 そのとき不意に、アルが横を見た。目についたのは茶色い物体。アルは目を細める。

「あれは……?」

「アル? どうかした?」

 アルの声に反応し、シアオもフォルテも同じ方向を見る。
 そして3匹はジーッとよく見えない物体を見ていると、ようやく誰かが倒れている事に気付いた。
 それに気付くと、3匹は慌ててその者の方に駆け寄った。

「おい、大丈夫か!?」

「起きて! おーい!!」

 アルは急いで駆け寄り声をかける。シアオは体をゆすった。
 なかなか起きなかったが、しばらくするとその者はうっすらと、ゆっくりと目を開けた。
 目を覚ましたことに、ホッと3匹は息をつき、そして声をかけた。

「大丈夫? あなた、此処に倒れていたのよ?」

 優しい口調でフォルテが話しかける。
 しかし、その者は聞いていなかった。ただ目を見開きながら、信じられないような目で

「なんで……どうしてポケモンが喋っているの……!?」

 少し震えながら小さな声で、そう言った。表情は戸惑いと驚きを隠せていなかった。
 その言葉を聞いて、シアオ達はキョトンとして固まった。シアオは首を傾げながら、その者にはっきりと述べた。

「何を言ってるのさ? ポケモンが喋られるなんて当たり前だよ? 君だってイーブイじゃないか」

「え……?」

 シアオにそう言われ、その者は海面で、自分の体を見た。
 ふさふさの茶色の毛、尻尾、手足。まさに、イーブイの姿。
 イーブイはもっと驚いたような顔をする。そしてイーブイは体を何度も見て、そして震える声でブツブツと呟く。

「嘘っ……!? え……!? ど、どういうこと……!? なんでっ……」

 1匹だけで困惑しているイーブイ。まるで3匹を忘れ去っているかのように。
 このまま見ていても問題はなかったのだが、これでは全くラチがあかないので、シアオがもう一度声をかける。

「あのさ……名前は?」

 イーブイはビクリと体を揺らし反応してから、少し間をあけて、ゆっくりと口を開いた。

「……スウィート。スウィート・レクリダ…………」

 顔は強張り、まともにシアオ達を見れていない。しかしイーブイ、スウィートは弱弱しく自分の名を告げた。
 声は小さかったがシアオ達にはしっかり聞こえていた。
 すると顎に手をあてて、何かを考えるようにスウィートを見ていたアルが、少しの間をあけて聞いた。

「失礼だとは思うけど……お尋ね者とかじゃないよな?」

「お尋ね者……?」

 アルの質問に、スウィートは首を傾げる。
 この様子ではお尋ね者ではないだろう。お尋ね者が何なのかも分かっていないのだから。

「いや、何でもない。にしても……なんで此処に倒れていたんだ?」

 そういわれて、スウィートは必死に頭の中の記憶を探る。
 なぜ倒れていたのか、というより何があったのか。起きる前にあった記憶を懸命に探った。
 だが、スウィートは

(あれ……?)

「……あれ…………? なんで、だろう……? っていうか、そもそも私、此処に来る前に何して……?」

 と困惑しているように呟いた。
 どれだけ頭の中の記憶を探っても、何も思い出せないのだ。思い出せるのは名前と人間だったということだけ。

「記憶喪失、かなぁ……?」

 スウィートの言葉を聞き、シアオが思い付いたように言う。だろうな、とアルが頷く。

「名前以外で覚えてることは?」

 フォルテに聞かれて、スウィートは頭の中で悩む。
 「元々は人間だった」と言って信じてもらえるのだろうか、と。おそらくは信じてもらえないだろう。だがこのままではスウィートとしては困るのだ。
 スウィートは意を決して言う事にした。

「人間だったこと、だけです……」

「へえ……。…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?」

「人間!?」

「……!?」

 そう言うと3匹とも驚いているようで、目を見開いていた。
 言わない方がよかったか、とスウィートは少し後悔する。だが言わない限り、何も進展はしないだろう。
 スウィートは後悔を振り払うように頭を振った。

 少しの沈黙。シアオが口を開こうとしたが

「うわっ!?」

 わざとらしくシアオにズバットが後ろからぶつかった。
 フォルテはすぐに反応し、シアオにぶつかった相手をキッと睨んだ。

「ちょっとあんた達! 気を付けなさいよ!!」

 そしてフォルテは凄い迫力でズバットに向かって怒鳴った。
 だが怒鳴られてもズバットは笑っていた。その隣にはドガースもいる。
 その様子にアルは目を細めた。スウィートはいきなりのことで目をパチクリさせている。

「ヘッ。んなこと知るかよ!」

「これは貰ってくぜ!」

 そう言いドガースはシアオが持っていた欠片を自分の懐に入れる。
 シアオはあっ、と声をあげるが遅かった。ズバットとドガースは早足で洞窟に入っていった。

「あいつら……!! おい、シアオ! ボサッとしてないで追いかけるぞ!」

「えぇっ!? ちょっ!? 待っ……!」

 アルがシアオの腕を引っ張り、洞窟へと連れて行った。
 スウィートはいきなりの展開についていけず、オロオロしていると

「貴女も一緒に来て!!」

「えっ、あの……!?」

 先ほどのシアオと同じように、スウィートもフォルテに強引に引っ張られ、4匹は洞窟へ入っていった。




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