朝礼とハプニング

 朝、スウィートは不意に目が覚めた。周りを見ると3匹はまだ寝ている。
 スウィートはまだ寝ぼけている頭をなんとか起こして、窓の近くに寄った。窓を見ると辺りは薄暗かった。

(今……何時なんだろう…? 暇だなぁ……)

 とスウィートは呑気に考え事をする。3匹は一向に起きそうにないので暇なのだ。
 アルは規則正しい寝息で寝ていて、シアオは何やらぶつぶつ言いながら、顔が笑っているので幸せな夢なのだろう。フォルテは恐らくディラの事だろうが「焼き鳥にしてやる……」などと呟いている。

 暫く3匹の様子を眺めたり、窓から見える風景を見ていると、窓から明るい光が差し込んできた。
 スウィートは窓の外を見る。そして目を見開いた。

(凄い……。綺麗……)

 スウィートがちょうど見たのは朝日が昇る所だった。太陽が海の水平線からゆっくりと出てくる。太陽の光で海はキラキラと輝いていた。
 スウィートはその光景に目を奪われた。
 何分か経ってスウィートは窓の外を見るのをやめた。
 そして今度からも早起きしよう、と考えていると、ムクッと誰かが起きた。

「ん……? ……おはよう、スウィート」

「お、おはよう、アル」

 アルの挨拶にスウィートは微笑んで返す。アルは「ふあぁ……」と欠伸をする。顔もまだ眠そうだった。
 アルはまだ寝ている2匹に目を向ける。まだぐっすりと寝ていた。

「あ、そうだ。スウィートに1つ忠告しとく。フォルテを無理やり起こそうとするなよ。酷い目にあうから」

 とアルに言われ、スウィートは頭に疑問符を浮かべながらも頷いておく。

 すると部屋に誰か入ってきた。スウィートはすぐさまあるの後ろに隠れる。そのポケモン、ドゴームはスウィートの様子を気にせず寝ている2匹を見ると、大きく息を吸った。
 アルは何か感じたのか「スウィート!耳塞げっ!! 嫌な予感がする!!」と耳を塞ぎながらスウィートに指示をする。スウィートは迷ったがとりあえず耳を塞いだ。
 そして嫌な予感は、的中した。

「起きろぉぉぉぉぉぉぉ!! 朝だぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「うぎゃぁぁぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 ドゴームの馬鹿でかい声に続き、シアオとフォルテが叫ぶ。耳を塞いでいても煩いのに、直撃したら鼓膜が破れるのでは?とスウィートは考えてしまった。
 一旦、ドゴームの声が止むが2匹は起きない、起きれないようだ。
 ドゴームはもう一度息を吸う。スウィートとアルはすぐに耳を塞いだ。そしてドゴームが口を開いた、が

「朝だといってん―」

「うるっっさいわね!! 黙れ、アホ鳥ぃぃぃぃぃい!!!!」

 フォルテがいつ覚えたのだろうか、(まだ威力は低いが)火炎放射を怒鳴りとともに放つ。
 咄嗟に反応できなかったドゴームは火炎放射に直撃し、まる焦げになった。
 アルがそんなドゴームを見てフォルテにむかって

「お前、何やってんだ!!」

「はっ!? ん? あぁ、おはよう、スウィート、アル」

 ツッコんだがは見事にスルー。フォルテは笑顔で挨拶してきた。
 今度ばかりはスウィートも微笑んで挨拶は出来なった。こんなことさえ無ければ出来たのだが。

「お前、自分が何したのか分かってんのか!?」

「へ? 何が??」

 アルの様子に首を傾げるフォルテ。自覚すらないようだ。これがアルの言っていた“酷い目”だとスウィートは納得した。
 アルが説明するとフォルテは軽い調子で笑いながら

「いや、夢であの鳥が煩くって。つい」

 と言った。アルは大ため息をついた。
 そしてまだ寝ている1匹を見る。駄目だ、コイツ的な目でアルが見るのを、スウィートは苦笑しながら、その1匹を起こすことにする。

「シアオ、朝だよ。起きて」

 呼びかけながら体を揺する。だが一向に起きる気配は無い。するとフォルテが叩き(ある意味暴力)起こした。シアオは渋々起きたが。
 そして焦げているドゴームを何とかするに時間がかかったのはいうまでもない。










「遅い!! お前ら一体何をしていた!?」

 行ってみると既に9匹のポケモンが綺麗に並んでいた。
 そしていきなりディラに怒鳴られた。フォルテが心の中で愚痴っていたのは言うまでもない。

「話すと長くなりますけど……聞きます?」

 アルが苦笑いをしながらディラに言う。
 するとディラは「……もういい」と諦めた様に言った。

「とりあえずお前達、自己紹介しなさい♪」

 ディラが指したのは勿論スウィート達。シアオは元気よく「はーいっ!!」と返事したがスウィートは固まった。

(こんな大人数の前で……自己紹介……? 無理、絶対に無理!!)

 スウィートは動こうとしない。するとフォルテが無理やり引っ張り、スウィートを前に立たせた。
 スウィートはすぐさま隣にいたアルの後ろに隠れる。

「スウィート……小さな声でもいいから、ね!」

 シアオが気を使って声をかけてくれる。
 スウィートは少々泣きそうな顔をしながら、本当に小さな声で

「ス……スウィート・レクリダです……。た、探検隊『シリウス』のリーダーです……。よろしくお願いします……」

 とやっとの思いで言った。言葉が全員に届いているか分からないが、スウィートは言えた、ということに満足した。
 そして3匹も自己紹介をする。

「シ、シアオ・フェデスです!宜しくお願いします!」

「フォルテ・アウストラ。探検隊『シリウス』の一員。よろしく」

「アルナイル・ムーリフです。アル、と呼んでください。宜しくお願いします」

 一通り自己紹介を済ませる。
 スウィートはやっと前から開放される! などと思っていたが、現実そうはならなかった。

「じゃあお前らも簡単に自己紹介してくれ♪」

 ディラが指したのは弟子達。「まだあるのか……」とスウィートは心の中でガックリし。た

「ではわたくしから。わたくしの名前はルチル・メイリーですわ!」

 「あ、あっしの名前はレニウム・コワードでゲス!」

「ワシの名前はラドン・オートン。起きてなかったら、今日みたいに大声をだして起こすからな」

(……それはある意味危険なんだが)

 キマワリ、ビッパ、ドゴームの順番に自己紹介をしてくれる。ドゴームの発言にアルがツッコんだのは本人しか知らない。

「僕はハダル・クハードです。主に見張り番の仕事をしています。見張り穴からの声は僕の声だったんですけど……分かりました?」

「ええ。今聞けば。15回も聞いてりゃ声も覚えたわ」

 ディグダの言葉にフォルテが相槌を打つ。
 シアオは一言余計! とフォルテに目で訴えようとしているが、フォルテは全く気付いていない。

「私はフィタン・クハード。ハダルの父親だ。宜しく」

「俺はイトロ・クリファスだ! よろしくな、ヘイヘイ!!」

「私はアメトリィ・モライトです。宜しくお願いしますね」

「俺はシャウラ・ウェイドだ。グヘヘ」

 順番にダグトリオ、ヘイガニ、チリーン、グレッグル。
 そしてようやく自己紹介が終わり列に並ぶ。スウィートは「やっと……」と密かに喜んでいた。
 そしてディラは満足そうな顔をしてから

「では、朝礼を始めるよ♪」

 するとロードの部屋のドアが開き、ロードが前に出てくる。

「親方様♪一言お願いします♪」

 とディラが言う。
 スウィート達4匹はどんなことを言うのだろうか、と少しワクワクしていた。が、聞こえてきたのは……

「ぐぅ……ぐうぅ…………」

 寝息。スウィートは驚いてロードをもう一度見る。
 ロードは目を開けたまま立っていて、寝ているようには見えない。だがしっかりと寝息は聞こえる。
 疑問に思っていると他の弟子達が、ヒソヒソと話始めた。

「(凄いよな……親方様……)」

「(実はああやって起きているように見えるけど……)」

「(目を開けて立ったまま寝てるんだもんなぁ……)」

 どうやらこれが日課のようだ。
 このギルド本気で大丈夫か? とアルは少々気になってしまった。

「ありがたいお言葉ありがとうございました♪ 皆、親方様の言葉を肝に銘じておくんだよ!!」

 ディラの言葉にどうやって、と疑問になる4匹。こんなに全員の気持ちが揃うのは凄い。
 するとやはり何事もなかったようにディラは進める。

「それでは朝の誓い、はじめっ!!」

「「「「はっ??」」」」

 ディラの言葉に4匹首を傾げる。これから何か始めようとしているのは分かるが、意味が全く分からない。
 うろたえる4匹を無視してギルドの全員は息を大きく吸った。

「「「「「ひとーつ! 仕事は絶対サボらなーい!」」」」」

「「「「「ふたーつ! 脱走したらお仕置きだ!」」」」」

「「「「「みっつー! 皆笑顔で明るいギルド!」」」」」

「さあ、皆! 仕事にかかるよ♪」

「「「「「おぉーーーー!!」」」」」

 スウィートとアルは気がついた。
 そういえばギルドの入り口の看板の『プクリンのギルド  探検隊 心得  十か条』のはじめの3つと同じということを。全く見ていなかったシアオとフォルテは何の事かわかっていないが。

「で、あたし達は何する訳?」

 フォルテがもっともなことを言う。するとスウィート達の様子に気がついたディラが

 「お前達♪そんな所でつったってないで来なさい♪」

 と言い、梯子を上っていった。4匹は慌てて後を追った。
 梯子を上るとディラがは大きな板の前にいた。板にはたくさんの紙が貼ってある。
 ディラは4匹揃ったのを確認すると話し始めた。

「ここは掲示板。依頼が貼ってあるんだ。最近……時が狂い始めているのは知っているよな?」

「ええ。そのせいで悪いポケモンが増えてるんでしょ?」

「あと……各地に不思議のダンジョンが広がってるんだよね」

 フォルテとシアオが答える。何も知らないスウィートは疑問府を浮かべながら、一生懸命考えた。

(時って……時間のことだよね? 狂い始めているって……どういうことなの……?)

 スウィートがモヤモヤしているなか、話は進んでいく。

「そう。よく知っているな♪ 説明も必要無さそうだな♪ お前達には依頼をこなしてもらう♪」

 スウィートはやっと考えるのを止める。
 依頼とはどのようなものなのか、スウィートだけではなく3匹も気になっていた

「うーん……おっ、これがいいな♪」

 ディラはシアオに紙を渡した。すぐにシアオは読み始めた。

「え〜と……
 『わたくしバネブーと申します。実は命の次に大切な真珠をなくしてしまったんです! それで探してみたのですがなんと! “湿った岩場”で真珠があったという情報が! でも怖くていけないんです……。
 なのでお願いしますっ! 真珠をとってきて下さい! 探検隊の皆さん、どうか宜しくお願いします!!』…………ってただの落とし物拾ってくるだけじゃん!?」

 シアオは何処か不満そうな顔をする。ディラは「そうだが?」と平然と言った。
 アルはシアオから依頼書を取り、まじまじと見る。そして

「何が不満なんだ? シアオ」

「だって…探検とかしたかったー」

「願望ばっかり言うな。このヘタレ」

 アルにぴしゃりと言われ、シアオは黙った。
 まだまだ不満がある、という顔だが反論できないようだ。ディラはとりあえず少々凍りついた空気で言葉を発する。

「エー……まぁ、依頼書どおりだ。“湿った岩場”に行って真珠をとってきてくれ♪」

「「「「はーい」」」」

 4匹は声を揃えて返事し、“湿った岩場”へ向かうのだった。





――――湿った岩場――――

 入ってからはとりあえず順調に進んでいた。敵もそこまでレベルが高いわけでもないので苦戦せずに倒していった。今はB3階。

「確か……B7階だったかしら? 何もおきなければいいけどね」

 とフォルテが呟く。
 確かに何もおきてほしくはない。このまま無事、依頼さえ達成できればよい。だが何があるかわからないので慎重にいかねばならない。

「大丈夫でしょ。大体、1回目の依頼で何かおきるなんて……考えたくないよ」

 シアオが笑顔でそういう。その通り、一回目で運悪く何かがおきるなどと思いたくない。
 もしも起こったならばどれだけ不運なんだ、とアルが考えていると、前にいたスウィートがいきなり……消えた。

「えっ!? スウィート!?」

 シアオがキョロキョロと辺りを見渡す。
 フォルテとアルも見渡すがスウィートの姿はない。呼んでも返事は返ってこない。

「えぇ!? 早速なんかおこったぁ!!」

 シアオがうろたえる。そしてスウィートが元いた場所に立った。
 するとシアオは一瞬で消えてしまった。アルとフォルテはその場所を見る。
 そこには――

「ワープスイッチ……」

 罠、ワープスイッチがあった。つまり、スウィートとシアオは何処かにワープさせられてしまったということで。

「嘘でしょ!? なんで言った瞬間にこういう事がおきる訳ぇ!?」

 フォルテが叫ぶ。確かにどうしてこんなタイミングピッタリで何かおこるのだ。
 誰かが仕組んだような展開だ。だがそんな事考えるよりまずは2匹を探さなくてはならない。
 アルはフォルテのほうを向いて忠告する。

「フォルテ。2匹を探すぞ。罠には気をつけろよ」

「分かってるわ――」

 ポチッと何か、嫌な音が小さく洞窟内に響いた。
 するといきなりフォルテの下から強風がまきおこった。

「きゃぁぁぁぁぁあッ!?」

「っ……!!」

 アルは近くの岩にしがみついたがフォルテは咄嗟に反応できず、何処かに悲鳴をあげながら飛ばされてしまった。
 やっと風が止み、岩から離れる。先程のものは突風スイッチだろう
 アルは状況を整理する。ついさっきまで4匹でいたはずだ。なのにこんな数分で全員バラバラになり、互いの居場所も分からなくなった。やはり、不運なのか――
 アルは上を向いて小さく言葉を発した。

「どうしてこうなった……」

 アルの言葉は空しく、静かに洞窟内に消えていった。




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