この世界


「……クレディア、もしかして体力ない?」

「そ、そんなこと、ないよ……?」

 クレディアより数歩先にいっているフールが止まり、そう聞くと息切れしながらもクレディアはそう答えた。しかし今の状態を見て体力があるとはフールに思えなかった。
 クレディアが追いつくと、少し早歩きでフールが進む。クレディアは息をきらしながらついていく。

「あの、クレディア大丈夫? いや、無理やり連れて来たのは私なんだけど……」

「だいじょぶ、だいじょーぶ……! ぜんぜん、いけ、いけるよ……!」

(いや、ぜんぜん無理だと思うんだけど)

 口には出さないが、フールは心の中でそんなことを思いながらクレディアを見る。
 クレディアが最初から持っていたリボンはしっかり腕に巻きつけてある。それを身ながらフールが首を傾げた。

「それ、最初に空から落ちてきたときも気にしてたけど……大事なものなの?」

 するとクレディアはリボンを見てから、困ったように笑った。

「うん。大事なもの。大切な人から、貰ったんだ」

「ふーん。じゃあなくさないようにしないとね」

 フールが「あ」と声をあげて、前を進んでいった。クレディアは慌ててついていくが、途中で辺りを見渡して立ち止まった。
 話している間に森は抜けていたらしい。今2匹がいる場所は滝や川があったり木がたっていたりと、自然が沢山ある場所だった。クレディアは自然と目を輝かせる。

「ふわぁぁぁ……すごい。すっごく綺麗だし、すっごい自然豊かだ……!」

 感想を漏らしていると、少し遠い場所からフールの「あ゛あぁぁぁぁぁぁ!!」という絶望しきった声が聞こえた。
 それに反応してクレディアがそちらに向かう。そこには膝をついて地面を叩いているフールの姿があった。

「えっと……フーちゃん?」

「先に進めない……! くっ、何でこんなときに橋が壊れてんの……!?」

 クレディアが前を見ると、フールの言っていた言葉がわかった。
 進んでいた道の先。橋はあるが、途中で壊れている。これでは先に進めない。それに大方フールは嘆いていたのだろう。
 どうしようか、とクレディアが辺りを見渡すと、穴を見つけた。

「フーちゃん。だいじょーぶ、だいじょーぶ。あそこに穴があるから、あそこから通れるかもしれないよ?」

 そのクレディアの言葉を聞いて、バッと勢いよくフールが顔をあげた。
 そして穴を見るや否や、クレディアにグーサインで「ナイス」と言い、クレディアもよく分かっていなかったが、グーサインをしてフールに返しておいた。

「よし、じゃあいくぞクレディアー!」

「いえっさー!」

 フールとクレディアは元気に声をだしてから、その穴に入っていった。





―――でこぼこ山 西の穴―――

「うはぁ……洞窟だ……」

「クレディアってさっきから何か変な声あげてるよね……。意味あるの?」

 フールがそう聞くと、クレディアは首を傾げる。どうやら分かっていないらしい。「なんでもない」とフールはその話題をすぐに切り上げた。
 そんな感じで進んでいると、クレディアの少し前にポケモンがいるのが分かった。

「……あれって……チラーミィ、だっけ?」

 その言葉にすぐ反応したのはフールだった。

「クレディア、敵ポケモンだからね! ちゃんと戦わなきゃダメだよ!」

「え? 戦う?」

 どうやって? と言おうとするとすぐ近くまで来ていたチラーミィがクレディアに体当たりをし、クレディアはそのまま反応できずにゴロゴロと転がっていった。
 唖然と見ていたフールだが、すぐさまチラーミィにむかっていった。

「でんきショック!」

 クレディアが見ると、フールの体から電気が放出され、チラーミィにあたるのが見えた。
 そして「あ」と声をあげ、ゆっくりと立ち上がった。

(そっか。私、いま人間じゃないんだった……。ポケモンの技で戦えって意味だったんだなぁ)

 しかし技ってどうやって出せばいいんだろう。
 クレディアが悩んでいると、フールがチラーミィを倒したみたいでクレディアに近寄ってきた。

「クレディア大丈夫? ……あ、そっか。ポケモンの体慣れてないよねー……。技の出し方わかる?」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ! 全く分からないけど!」

「分からないのに何が大丈夫!?」

 危機感も何も覚えていないクレディアは相変わらずニコニコしている。そんな様子のクレディアを見てフールが息をはいた。





「あれ、外に出たね?」

「そりゃ出るよ……」

 あれから頑張って技の出し方という、とても困難なことをクレディアに教えていたフールは多少というよりかなりぐったりとしていた。クレディアは相変わらず呑気である。
 結局のところ技をだせるようになったが、蔓のムチでたびたび自分を叩くのだからフールはハラハラしている。

「でも……何か、こっちも道がないけど……」

「えぇぇぇぇっ!?」

 クレディアの言うとおり、道がない。そのまま進めば、下に真っ逆さまになる。
 がっくり肩を落として「一体なんのために進んだんだ……!」と言っているフールをスルーし、またしてもクレディアは辺りを見渡した。
 クレディアの目についたのは1本の木。先の方は無残に折れている。

(……これを使ったら…………)

 少し木から離れ、勢いをつけようとする。
 そして小さく「ごめんね」と謝ってからクレディアは木にたいあたりをした。

「お、おぉ……?」

 たいあたりで木がどんどん傾いていく。もう枯れかけていたからか、木はすんなりと折れて、反対側の地面に先がいき、こちらとあちらの地面をつなぐ橋のようになった。
 それを見ていたフールが「うわぁ!!」と声をあげ、クレディアの手を握ってぶんぶんとふった。

「凄いよ、クレディア! 技を上手く使えなくたって、クレディアは頭脳でいけるね!」

「えへへ、ありがとー」

 さり気なくフールに貶されているのには気付いていないらしい。クレディアは嬉しそうにお礼を言った。
 そしてゆっくりと2匹は橋となった木をわたる。落ちないように慎重に。

 全部渡りきってから、フールがほっと息をついた。クレディアを見ると、顔に疲労が見れた。

「クレディア大丈夫?」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。慣れないことしてるのと、体に慣れてないから……ちょっと、辛いけど……」

 慣れるしかないかなぁ、とクレディアが笑うとフールも「そうだね」と同意を示した。
 そしてまた同じような穴に入っていった。




―――でこぼこ山 東の穴―――

「蔓のムチ! ってあれ?」

「ぎゃぁぁ!?」

 クレディアがだした蔓は何故かフールの方向にとんでいき、フールが避けため蔓は地面にバチンッと音をたてた。
 フールは相手のゴチムに何とか電気ショックをあて、麻痺したところをねこだましで倒す。倒した後にすぐにクレディアに詰め寄った。

「クレディア!? だからもうちょっと蔓に集中しよう!?」

「やってるつもりなんだけどなぁ……」

 うーん、と言いながら蔓をだすクレディアからフールが離れる。さっきの様なことを懸念してだろう。
 すると何故か蔓はクレディアの頭をぺしっと叩いた。それにクレディアが「痛い」と頭をおさえて蹲る。やはり全く制御できていないらしい。
 先が思いやられると思っているフールだが、クレディアはこれっぽちも考えていなかった。


 穴を出ると、先ほどみた壊れた橋が見えた。先ほど自分たちがいた場所も見える。
 それを見てフールはガッツポーズをした。

「よっし! これでとりあえず進める!!」

「そうだね。あ、こっちかな」

 クレディアが進むと、フールもついてくる。
 大きな岩があるものの、そこは避ければ何とか通れた。そうして、2匹は先へと進んでいった。


 進んでいるうちに、道という道にいつの間にか入っており、しばらくして十字路についた。そこには標識があり、クレディアが息を整えている間にフールがそれをよんで、はぁぁと息をついた。

「やぁーっとここまで来れたぁぁぁああぁぁぁぁぁッ!!」

「こ、これたーっ……!」

 フールの声にあわせ、クレディアも何とか声をはろうとするが全く声が出ていなかった。
 そして1匹で興奮していたフールは不意にくるりと向きをかえ、疲れ果てているクレディアに声をかけた。

「クレディア、付いてきてくれてありがと! ……うん、ごめんね」

「だ、だいじょーぶ、だいじょーぶ、だよ……」

 大丈夫じゃないのは誰が見てもはっきりと分かる。
 「本当にごめん」ともう一度フールは謝ってから、クレディアの右手をとった。

「ホンットにあと少しで目的地なんだ! 大丈夫?」

「ぜんぜん、いけるから、心配しな、いで……!」

 左手で拳を作ってみせるクレディアだが、全く力が入っていない。逆にフールは心配するということに、当本人は全く気付いていない。
 とりあえず、といった風にフールはクレディアの右手をしっかりと掴んで目的地まで誘導していった。



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