狂った情人は哂う


 人は常に、死と隣合わせで生きている。

 そんなことは知っていた。けど、それを認めたくなかったのは、間違いなく俺で。
 頬に触れても、その頬は冷たい。名前をよんでも、反応はしない。抱きしめても、何も反応してくれない。

 彼女は、自分の死についてよく考えていた。
 けど俺はそれを聞きたくなかった。

 だから彼女に「やめてくれ」と頼んだ。「死にたいと言っているように聞こえる」と言ったら、彼女は笑った。
 笑ったまま、こう言った。

「死にたいわけじゃないの。私が私の死を考えているのは、死ぬためじゃない。生きるためなの。生きるために、自分の死について、考えているの」

 全く理解できなかったが、「生きるため」と聞いて、もう「やめてくれ」とは言わなかった。否、言えなかった。

 しかしどうだろう。
 俺よりも、誰よりも自分の死について考えていた彼女は、俺より先に逝ってしまった。
 意味がないじゃないか。これでは、君が死について考えていた意味が、全くない。君は生きるためだと言った。しかし、今の君は息をしていない。動かないじゃないか。笑わないじゃないか。

 死んだら、もう明日を見れないじゃないか。君は、何よりも明日を見たがって生きていたじゃないか。

「なぁ、返事をしてくれ……」

 愛しい君は、何も言ってくれない。
 俺は、君を愛していた。俺は、君を心から愛していた。

 もう一度、あの頃に戻りたい。
 君が居るあの時間に。君が笑っているあの時間に。君が俺に「愛している」といってくれた時間に。

 もう一度、戻ろう。あの時間へ。





狂った情人は哂う

(何もかもを巻き込んで、ただ彼女に会うために)







何かおぞましい作品ができてしまった……!!



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