鈍感者の説教は

「どうしてシルドはそんなに鈍感なの?」

「は?」

 スウィートの言葉に、水を飲んでいた者たちがブッと噴き出した。他は目を丸くし、シルドは訝しげな表情をしている。
 今この場にいるのはスウィートとシルドと、ヴァーミリオンの長女長男以外だ。

 シルドは心底スウィートの質問の意味が理解できないようで、怪しむようにスウィートを見てから言葉を返した。

「……動きは敏感な方だが」

「そうじゃなくって……」

「やめときなさい、スウィートちゃん。筋金入りの鈍感には何を言っても無駄よ〜」

 アトラに制されて、スウィートはむすっとした表情になる。シルドはやはり何を言っているのか分からないといった表情だが。
 すると次々にヴァーミリオンの下の者たちが話し出した。

「つーかスウィートもその立場になったら絶対に鈍感だろ。俺様が保証する」

「あら、その前にわたくしに許可を貰ってからでなくては困りますわ。変な殿方とはぜぇったいに結ばせませんもの」

「決めるのはスウィートだろ、リアロ。お前は関係ないよな」

「ご主人はわたくしが守りますの! ていうかその前に絶対に認めないですわ!!」

「そんな輩、あたしが凍らせる」

「正直言ってお前らが怖いよ、俺は」

 何でかシルドからスウィートに話題が移るが、義兄弟たちはそれを気にしていないらしい。スウィートの話題で盛り上がり始める。
 スウィートが困ったような顔をすると、アトラが「フフ」と笑った。

「皆スウィートちゃん大好きねぇ。きっとムーンちゃんがいてもシクルちゃんやリアロちゃんと同じことを言い出すんでしょうけど」

「話題がずれてってることがおかしいと思うの……。……話題を戻して、シルドはもっと女の子の恋心を分かるべきだと思う」

「はぁ?」

 ほぼ答えを言っているようなものだが、シルドはやはり分からないらしい。アトラはホッと小さく息をついた。レヴィのために。
 スウィートは更にシルドに話す。

「もうちょっと敏感になるべきだと思うの」

「いや、意味がわからない。ていうか何の話だ、ホントに」

「シルドちゃん、聞いてあげなさい」

「アトラ、ちゃん付けをやめろと何度いえば分かる?」

「話を逸らさないの、シルド」

「逸らしてない」

 これは口を挟まないほうがいいかな、とアトラが口を噤む。スウィートが余計なことを言いそうになったら止めればいいか、と。
 ギャーギャー騒いでいるヴァーミリオンの義兄弟のすぐ横で、スウィートが話し出す。

「もうちょっとレヴィちゃんの気持ちを考えよう」

「は? レヴィ? 何か悩みでも持ち始めたか?」

「結構 前から持ってるよ」

「そうか。で? その悩みを聞いてやればいいのか?」

「ううん。シルドがレヴィちゃんの気持ちを汲み取ってあげればいいだけだよ」

「…………スウィート、意味が分からない」

「……あれ?」

 なんだかなぁ、とアトラは苦笑する他ない。
 まずシルドもスウィートも鈍感で、恋愛経験も疎いのだ。そんな2人(1匹と1人だが)が恋愛話など、できるはずもない。
 だからこそ、こんな風に会話が成立していないのである。

 するとガサガサッと遠くの音がした。野生のポケモンか、それとも仲間が帰ってきたのか。
 アトラが見ると、ピンク色の何かが見えた。おそらくレヴィだ。ミングとムーンも帰ってきたのだろう。思いのほか早かったなぁ、と思いながらアトラが見ると、やはり3匹だった。
 3匹はこの場を見るや否や、首を傾げる。

「……どうしたの、これ?」

「ちょっとね〜」

「あっ、ミングにムーン! 2匹もご主人に殿方なんて認めませんわよね!?」

「……何じゃ、いきなり」

「……意味がわからない」

 レヴィはアトラの元へ、ミングとムーンは名前を呼ばれたことからヴァーミリオンの義兄弟の会話に混じっていく。
 アトラの元にきたレヴィは、シルドとスウィートを見てからもう一度 首を傾げる。

「あの2人も……どうしたの?」

「聞いていたら分かるわよ〜」

 もう一度 首を傾げ、シルドとスウィートの会話に耳を傾けた。

「だからもうちょっと人の心をよめるように……」

「無理いうな。出来るか」

「じゃあ乙女心を勉強してよ」

「……何だそれは」

 その会話だけで理解したのか、レヴィが遠い目をしながら「……あぁ」と納得したような顔をした。アトラは苦笑する。
 するとレヴィはがっくりと肩を落とし、項垂れた。

「スーちゃんの気持ちは有難いけど、鈍感さんに鈍感さんが説教しても意味がないのよ……」

「……よねぇ」

 そんな会話には気付かず、スウィートはシルドに話し続ける。




鈍感者の説教は
(全く意味がないのに、彼女はやり続けちゃうのよね)


「あっ、レヴィちゃん! 聞いて、シルドが全く理解してくれないの!」

「お前の言ってることが俺には全く分からない」

「それ凄く失礼だよ」

「失礼じゃないし、お前の言うことは恐らく誰も理解できないと俺は思う」

「そ、そんなことないもん!」

「まぁまぁ。もう、仲がいいんだから」

「「それ今いう台詞じゃない」」


ま、そんな鈍感さんたちが、私は大好きなんだけどね。







こんな感じな未来組のほのぼの。
スウィートもシルドも鈍感だと信じてる。レヴィは大変だったろうなぁ……。
ヴァーミリオンの皆さんをもうちょっと出したかった……!




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